「夏の海=パラソル」はもう古い?ECデータが暴く「ビーチテント1.7倍売れ」の真実と、パラソル”静かなる逆襲”
夏の行楽シーズン真っ只中ですが、皆さんぜひ一度想像してみてください。「海」「浜辺」と聞いて、頭に浮かぶ風景はどんなものでしょうか。青い海、白い砂浜、そして砂浜に立つカラフルなパラソル――そんな絵を描いた方が多いのではないでしょうか。
ところが、ECモールの売上データを見ると、その風景が売上の実態とは異なっていること、ご存じでしょうか? 思い描いたパラソルよりも、実は「ビーチテント」の方が売れています。その差を比べると、2025年の販売数量ではビーチテントが約1.7倍。夏場に限れば、この関係は今回調査した2019年から一度も入れ替わっていません。
本記事では、Nint ECommerceの推計データ※をもとに、主要ECモールの2019年1月〜2026年7月の91ヶ月分の「ビーチパラソル・ビーチテント」市場を振り返りながら、主役交代はいつ起きたのか、なぜテントなのか、そしてビーチパラソルはこのまま市場から消えていってしまうのかを整理していきます。
※本データはNint ECommerceによる推計売上データです。

【集計の定義】ジャンルにない「ビーチテント」「ビーチパラソル」を商品名から抽出 ── ECモールの分類には存在しない市場をデータで作る
まず、本記事で比較する「市場」の定義を整理します。
「ビーチテント」「ビーチパラソル」というジャンルは、ECモールの商品分類には存在しません。そこで本記事では、該当ジャンル(テント系・パラソル系)から商品名に「ビーチ」を含む商品を抽出し、これを「ビーチテント市場」「ビーチパラソル市場」としました。※1
ジャンルとして用意されていない市場でも、商品名で拾い直せば「同じ土俵の比較」が可能になります。

図1は2025年の比較です。売上ではビーチテントがビーチパラソルの約1.6倍、販売数量では約1.7倍。注目すべきは平均単価で、ビーチテントが約5,900円、ビーチパラソルが約6,300円と、むしろパラソルの方がやや高い水準にあります。つまりビーチテントが多いのは「1つの値段が高いから売上が大きく見える」のではなく、値段は同じかやや安いのに、売れた個数そのものが多いということです。ビーチの日除けとしてどちらが多く買われているか。その答えは、ECではすでに出ていることになります。
背景として、ビーチテントは着替えや子どものお昼寝、荷物置きまで一つでこなす「家族の拠点」として使われている点があります。パラソルが「日差しを遮る日陰」だとすれば、テントは「プライベート空間を守る日陰」。日除けの主流は、傘の下の日陰から、囲われた空間へと移っていると考えられます。
※1 商品名によるキーワード分類のため、名称に「ビーチ」を含まないビーチ用途商品は含まれません。
【変化はいつから?】夏場の販売数量に占めるビーチテントの比率は38ヶ月間すべて過半 ── 交代劇はデータの外で終わっていた
「最近になってビーチテントが流行り始めたのでは?」という疑問に答えるため、ビーチテントとビーチパラソルの販売数量の合計に占めるビーチテントの比率を、夏場(5〜9月)で毎月追ってみました。

結果は図2の通りです。2019年から2026年までの夏場38ヶ月間、ビーチテントの比率が5割を下回った月は一度もありません。38ヶ月のうち35ヶ月では6割以上を占めています。しかもデータの始点である2019年の夏の時点で、ビーチテントの比率は約9割。販売数量で8倍以上の開きがありました。
つまり「逆転の瞬間」はこのデータの中にありません。主役交代は今起きているのではなく、少なくとも2019年より前に起きていたと考えられます。海辺のイメージが昔のまま止まっている間に、売り場の主流だけが静かに入れ替わっていた、ということになります。
【どのような商品が?】ビーチテントの9割近くが「ポップアップ・ワンタッチ」 ── 3秒設営・紫外線対策・個室化が支持の背景
ビーチテントが選ばれる理由は、商品名からも見えてきます。

ビーチテントの商品名を見ると、「ポップアップ」「ワンタッチ」を謳った簡単設営の商品が販売数量の8〜9割を占め、この構造は2019年から変わっていません。「浜辺に着いて数秒で日陰ができる」ことが、ビーチテントの当たり前になっていると言えます。
もう一つのポイントは単価です。ビーチテントのピーク期(6〜7月)の平均単価は、2019年の約4,000円から2026年には約6,900円へ(図1の2025年通年平均とは集計期間が異なります)と約1.7倍に上昇しました。UVカット率や遮光性の訴求、フルクローズ(すべて閉めることができる)可能な大型モデルの増加など、高機能化が単価を押し上げていると見られます。一方で売れた個数は2019年がピークで減っており、ビーチテント市場は「数を売る」段階から「1つの値段を上げて売上を保つ」段階に入っています。
この背景には、紫外線・熱中症対策への意識の高まりがあります。環境省の熱中症警戒アラートは2025年度に発表回数が延べ1,749回と過去最多を更新し(環境省・気象庁発表)、政府の熱中症対策でも「日陰の確保」が推奨されています。数秒で設営できる手軽さ、着替えや子どものお昼寝にも使える「個室」としての役割も含め、日陰を作る以上の価値を持ったことが、ビーチテントが主流であり続ける理由と考えられます。
【直近の変化】ビーチパラソルの静かな復権 ── 販売数量の差は8.4倍から2.0倍まで縮小
ここまでビーチテントが主流である状況を見てきましたが、実は直近のデータにはもう一つの動きがあります。

図4は、ビーチテントの販売数量がビーチパラソルの何倍かをピーク期(6〜7月)で追ったものです。2019年の8.4倍から、2024年以降は2倍前後まで差が縮小しています。ビーチテントが主流であることは変わりませんが、ビーチパラソルが着実に割合を高めています。夏場のビーチテント比率で見ても、2019年の約9割から2025年・2026年は5〜7割まで下がっています。
この差の縮小は、ビーチテントの数量減少とビーチパラソルの数量増加の両方によるものです。ビーチパラソルの年間販売数量は2019年と比較し、2025年には約2.9倍に増加。単価もピーク期(6〜7月)平均で2019年の約5,700円から2026年には約7,400円へと約1.3倍に上昇しています。大型化やUVカット・熱を遮る機能の強化など、ビーチテントと同じように機能を高めており、主流の座はテントに譲りつつも、ビーチパラソルは「ビーチ用の高機能な日除け」として存在感を取り戻しています。
興味深いのは、この盛り返しがまだ「表」には出ていないことです。大手アウトドアメーカー各社が2025年以降に出した新商品を見ると、その中心はテント・サンシェード系で、パラソルを後押しするような新製品の流れは、2026年8月時点で各社の公開情報を確認した範囲では見当たりません。つまりビーチパラソルの復権は、メーカーの動きより先に、販売データにだけ現れている段階の変化と言えます。
まとめ ── 91ヶ月のデータで分かったこと
- 「ビーチテント」「ビーチパラソル」はECモールのジャンルに存在しないため、商品名に「ビーチ」を含む商品を抽出して同じ土俵の市場を定義した
- 2025年の販売数量はビーチテントがビーチパラソルの約1.7倍。平均単価はパラソルの方がやや高く、テントの規模差は単価によるものではない
- 夏場(5〜9月)の販売数量に占めるビーチテントの比率は、2019年から2026年の38ヶ月すべてで過半(うち35ヶ月は6割以上)。逆転の瞬間はデータ内に存在しない
- ビーチテントの8〜9割はポップアップ・ワンタッチ型。平均単価は約1.7倍に上がる一方、売れた個数は2019年がピークで減っており、値段を上げて売上を保つ段階に入っている
- 販売数量の差は8.4倍から2.0倍まで縮小。ビーチパラソルの販売数量は7年で約2.9倍に増え、単価も上昇
- ビーチパラソルは「ビーチ用の高機能日除け」として存在感を取り戻しつつあり、ビーチテントと並び立つ形になってきている
2026年以降の見通し ── 主流はビーチテント、ビーチパラソルは「高機能化」で共存へ
データの最新点は2026年7月、まさにこの夏のシーズン中です。ここから先の見通しを整理します。
ビーチテントが主流の構図は当面続く見通しです。
販売数量で夏場38ヶ月連続の過半という実績に加え、猛暑の常態化と紫外線・熱中症対策への意識は年々強まっています。日陰なしでは浜辺で過ごしにくい状況が続く限り、設営が簡単で日差しをしっかり防げるテント型の日除けの需要は底堅いと考えられます。大手アウトドアメーカー各社の2025年以降の新商品もテント・サンシェード系が中心で、UVカット率90%以上やフルクローズ、軽量化といった機能強化が共通しています。海水浴に行く人の数そのものは長い目で見ると減っているとされるなかで(日本生産性本部「レジャー白書」)、ビーチテント・ビーチパラソルとも1つの値段が上がり続けているのは、ビーチに行く人の「装備の質」が上がっていることを示していると見られます。
設置規制の動向は「小型・軽量化」をさらに後押しする可能性があります。
一部の自治体では、大型テントやタープ、脚付きテントの設置を制限する海水浴場が出てきています。規制の厳しさには地域差があり、小型のポップアップテントやサンシェードはおおむね認められているため、規制が広がるほど「より小さく、より簡単に建てられる日除け」へ需要が移りそうです。
ビーチパラソルの復権も続く可能性があります。
販売数量の差は2倍前後まで縮まり、単価も上昇基調です。持ち運びやすさや設営の速さなど、テントにない良さを機能面で磨く流れが定着すれば、ビーチテントとビーチパラソルの両方を使う人も含めて市場はさらに広がる余地があります。一方でメーカー側の新製品はまだテント中心のため、当面は今ある高機能パラソルが見直される形で進む見通しです。
両方に共通する成長の軸は「日除けの高機能化」と考えられます。
ビーチテントもビーチパラソルも平均単価が上がっており、買う人が「安さ」よりも「守る力」で選ぶ方向へ動いています。UVカット・熱を遮る・大型化といった機能のアピールは、2026年以降も商品開発の中心になりそうです。
海のイメージと売り場の現実のズレは、裏を返せば「まだ多くの人が気づいていない市場の変化」です。次の夏、あなたがビーチの絵を描くときは、パラソルの隣に小さなテントをひとつ描き足してみてください。それが、データが示す今の浜辺の風景です。
では、その”テント”を売っているのはどのメーカーで、”パラソル”を伸ばしているのは誰なのか――ここから先は、データを実名で見る領域です。
ECデータで季節商材の意外な動きを読み解いた分析は、花火はいつ売れる? ECデータが暴いた「冬の隠れ需要」の正体でも公開しています。夏の海に関連する市場では、水泳市場レポートやマリンスポーツ市場の分析もあわせてご覧ください。
参考文献
- 環境省 熱中症予防情報サイト「熱中症警戒アラート発表履歴」(2025年度の発表回数 延べ1,749回・過去最多)
- 公益財団法人日本生産性本部「レジャー白書」(海水浴参加人口の長期推移)
本記事の「ビーチテント」「ビーチパラソル」のように、ECモールのジャンルには存在しない市場でも、Nint ECommerceでは商品名のキーワードで商品を抽出し、独自の市場として売上・数量・単価の推移を追うことができます。
本記事ではメーカー名・商品名をマスキングしていますが、Nint ECommerceでは実名での売上ランキングや商品別の売上推移を確認できます。記事中の数値の元となる推計売上データも、Nint ECommerceで詳細にご覧いただけます。
月次・週次の売上推移や商品別ランキングなど、さらに詳しいデータ分析にご興味のある方は、お気軽にお問い合わせください。


関連サービス・資料
執筆者の視点
今回のデータでいちばん驚いたのは、「逆転の瞬間」がどこにも見つからなかったことです。91ヶ月さかのぼっても、ビーチテントは最初から主役でした。私たちが思い浮かべる「パラソルの浜辺」は、データの上では2019年より前に終わっていた風景だったことになります。もう一つ、メーカーの新製品がまだテント中心である一方で、パラソルの数量だけが先に伸びている点も印象的でした。作り手より先に、買い手の行動がデータに現れる。この「ズレ」こそ、販売データを定点で見る面白さだと感じています。
対象期間: 2019年1月〜2026年7月/データソース: Nint ECommerce(推計値)/対象: 該当ジャンルのうち商品名に「ビーチ」を含むテント・パラソル商品(主要ECモール)
この記事を書いた人

山本 真大(やまもと まさひろ)
株式会社Nint マーケティングDiv ECアナリスト
note:https://note.com/nint_ecommerce
株式会社明治の菓子営業としてキャリアをスタートし、主に店頭での販促施策を担当。その後IT業界・流通業界・他業界のメーカー職を経験し、オフライン市場における、製造・流通に携わる。EC業界の今後に魅力を感じ株式会社Nintへ入社。営業・カスタマーサクセスを経て現在、ECデータアナリストとして、数々のブログや電子書籍の執筆、セミナー登壇に関わる。
セミナー登壇数は100以上となり、オフラインの経験とオンラインのデータ分析をもとにした、セミナー内容は参加者からも好評をいただいている。
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