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2022年年末の中国における感染爆発と3年間で変化した消費トレンドによる「インバウンド」への影響とは?

#中国のEC #越境EC

ゼロコロナ対策緩和に伴う感染爆発で一部商品売上がYoY+20,000%

2022年12月、中国ではゼロコロナ対策の緩和と同時に国内各地で感染が拡大した。春節を迎える1月後半までには、国民の7割、約10億人近くが感染を経験したとされる報道もある。

PCR検査と感染隔離の廃止により、感染が急増しただけではなく、3年間の中で初めて自宅療養となったため、国内では感染症状の緩和に関連する家庭用グッズ・薬の需要が急速に高まった。この時期、多くの日本ブランド商品に対しても需要が高まった。日本のスーパーやドラッグストアで関連商品が在庫切れ、または「一人あたり2点まで」のような購入規制など、海を渡って日本にまで影響が及んだと報道するニュースも記憶に新しい。ある越境ECプラットフォーム上では流通額前年同期比+20,000%等と、爆発的に需要された商品もあった。

この感染拡大と前後して、全国的に外出規制が解除され、海外渡航の機会が増えつつあった。この流れを受けて、日本ではインバウンド商機に備える動きが出始めているとも言われる。仮に、今後中国人観光客によるインバウンド需要が復活するとしたとき、どんな消費活動をするのであろうか。「爆買い」が流行語になったインバウンド全盛期とコロナ禍の3年間では、中国人による日本ブランド商品の消費に違いがあるのではないか。 この違いを探るため、インバウンド消費と越境EC消費の相関関係を前提に、コロナ前のインバウンド全盛期2019年、インバウンド閑散期2020年〜2022年、そして2022年末の感染拡大期の3期に渡り中国EC市場における日本ブランド消費を分析した。

中国アフターコロナにおいて、日本ブランドがどう消費されうるのか、インバウンド復活に備えてどんな商品をラインナップすべきか、ヒントになれば幸いである。

1日で1.2億円近く売り上げる日本商品

感染ピークの12月には食品飲料や医薬品など、栄養補給や症状緩和の目的で、多くのカテゴリで関連商品の売上が急激に増加した。例えば、以下日本商品が挙げられる。

医薬品カテゴリでは、インバウンド全盛期に「神薬12」と呼ばれた訪日中国人のマストバイアイテムは、コロナ禍においても健在であることが証明された。例えば、エスエス製薬のイブクイック頭痛薬を対象に分析してみた。

新型コロナウイルスによりインバウンドが途絶えた2020年からは、アリババ集団の越境ECサイト天猫国際で流通が始まり、2021年6月には「eve海外旗艦店」が開店した。継続的に売上が成長してきた中、この度の感染爆発により商品需要が再熱した。しかし、1月には需要が落ちつく傾向となり、MoMは-77%と12月から急下した。

一時的な特需ではあるが、インバウンドが途絶えた後も越境ECで商品人気が続いていることが分かる。加えて、今後の売上に対してプラスの影響を与えたことも間違いないだろう。

シン・神薬12が誕生する可能性も?

一方で、同じ医薬品カテゴリでも2019年当時では「神薬12」入りをしていないが、今回の感染爆発により一気に売上を伸ばし、さらに知名度を上げた商品もある。

大正製薬は、天猫国際にて2019年5月に「大正制药海外旗舰店」を開店した。当年は目薬商品と「神薬12」入りしている口内炎パッチ商品が売上における大きなシェアを占めた。その後も、2022年10月までは依然としてニ商品が店舗売上TOP1、2に位置つけていた。

しかし、11月より風邪薬のパブロンゴールドAが売上急増。12月単月で約600万元の流通額を叩き出し、旗艦店全商品の年間合計流通額の約35%を占めることとなった。

その後はイブクイック頭痛薬と同様に需要が落ち着き、2023年2月1日ー17日の18日間では流通額が8万元と大幅減少し、2位の目薬商品と同規模まで落ち着いた。

しかし、今回の影響によって「神薬12」に選出されていなかったバブロンゴールドAは今後、インバウンド消費では2019年当時よりも需要が高まる可能性が大きいだろう。

2023年のインバウンド消費に期待される3カテゴリ

今回の感染爆発とは別に、インバウンドが停止していた3年間の中で新たに越境ECでトレンドとなったカテゴリもいくつか生まれた。アウトドア用品など、日本でも起きているトレンドと同じジャンルもあれば、異なるジャンルも存在する。

カテゴリを細分化することで、さらにトレンドを詳細に把握することができる。例えば、ペット業界の中では市場規模が小さいものの、おもちゃや食器類など機能性とは異なるデザイン面での需要も高い。そして、おもちゃではカテゴリが多様化し、中には特定の日本商品が選ばれているケースもある。日本商品が強みを発揮できるカテゴリや要素が分かる。

日本キャンプブランド、中国進出3ヶ月で1.2億円の売上達成

アウトドア商品ジャンルの中でもテントカテゴリは規模が大きく、成長率も高い。

大阪に本拠を持つビーズ株式会社が展開するキャンプギアブランド「DOD」は、2022年10月に天猫で「DOD户外旗舰店」を開店し、12月までの3ヶ月で約600万元を売り上げた。人気商品の一つとして、キノコテントと呼ばれる大人数用でデザインが特徴的なテントがある。日本と中国の小売価格差を比較すると、日本が約2万円安価で、中国の小売価格から計算すると約33%安い。

中国進出が半年以内かつ人気が高く、日中小売価格差が大きい点を踏まえると、インバウンド訪日客が旅行している間に購入することが予想できる。テントカテゴリ以外にも、アウトドア用品ジャンルでは数多くのカテゴリが高い成長率も示している。日本商品の人気高さを踏まえると、適切な商品を揃えることができれば売上を大きく伸ばすことができるだろう。

まとめ:空白の3年間を経た今、インバウンド消費を取り込むには需要の再理解が必要

OTC医薬品カテゴリの商品は、越境ECでの販売価格よりも日本の小売店の販売価格の方が安価の場合が多い。商品によっては30%も近く価格差がある。その為、越境ECでの人気商品や販売価格を調査したのち、価格差を訴求した商品ラインナップや、日本では人気だが中国では未発売の商品、子供用医薬品が含まれたファミリーセットをインバウンド向けに揃える施策が有効かもしれない。

また、2019年から約3年間のインバウンド空白期間を経た今、訪日観光客の中でも人数・消費額ともに占める割合が大きい中国大陸訪日客を再理解する必要がある。アウトドア用品など、トレンドが変わったジャンルは多い。日本商品が強いカテゴリを細かく知り、適切な商品を販売することはこれからのインバウンド消費を取り込むのに重要だろう。