家具、インテリア業界におけるEC市場の規模は他の業界と比べても高い水準であり、店舗と併せてインターネットでの販売に力を入れる家具店も少なくありません。本記事では家具のEC市場規模の概況と動向、拡大の要因を解説します。
また、インターネットでの販売においては重要な存在である「主要3モール」の売上規模と販売数量についても紹介します。いずれも今後の展開を検討するためには欠かせない情報をまとめたので、ぜひ確認してください。
【目次】▼家具のEC市場規模と動向
└生活雑貨・家具・インテリア販売のEC市場規模
└生活雑貨・家具・インテリア販売のEC化率
└家具全体の市場概況
▼ECでの市場規模が拡大した要因
└コロナ禍でのライフスタイルの変化
└技術革新によるネットでの購入需要の増加
▼3大ECモールにおける家具市場規模推移
▼ECサイトの普及拡大が家具の市場における重要なポイント
家具のEC市場規模と動向
EC(Electronic Commerce)は「電子商取引」という意味で、ネット通販やインターネットショップを総じて指すことが多いです。企業間取引(BtoB)、企業と個人の取引(BtoC)、個人間取引(CtoC)に分類でき、取引方法は主に「ECモール」もしくは「自社ECサイトによる直接取引」に区分されます。EC市場の調査を行っている主体は、官民さまざまですが、結果を調べる際は「どのような取引を対象にしているか」を明確に理解することが大切です。
本記事では、ECサイト全般におけるBtoC(消費者向け電子商取引)の市場規模のデータを参照し、家具・インテリアをめぐる動向をまとめます。
生活雑貨・家具・インテリア販売のEC市場規模
2022年8月、経済産業省が発表した「令和3年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」によると、2021年のBtoC-ECの日本国内の市場規模は20兆6950億円であり、前年比は7.35%増となっています。そのうち、生活雑貨、家具、インテリアのBtoC-ECは2兆2,752億円と前年対比で6.71%上昇したことが明らかになっています。
「令和3年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」(2022年8月12日)
■経済産業省の調査における生活雑貨、家具、インテリアの構成要素
・家事雑貨(食器台所用品など)
・家事用消耗品(洗剤やティッシュなど)
・一般家具
・インテリア(カーテンなど)
・寝具類
上記の構成のうち、約7割を家事雑貨、家事用消耗品が占めており、残りの3割が家具やインテリア、寝具類となっています。2019年は1兆7,428億円だったことも考慮すると、ECの市場規模は拡大傾向であると考えられます。
生活雑貨・家具・インテリア販売のEC化率
EC市場のトレンドを探るうえで着目すべき指標の1つが「EC化率」です。EC化率とはすべての商取引におけるEC市場の割合を指します。例えば、今回のケースだと「生活雑貨・家具・インテリア販売のEC市場規模÷生活雑貨・家具・インテリア販売の全取引の総額」によって、同カテゴリーにおけるEC市場規模の普及具合を明らかにできます。経済産業省の調査によると、2021年の生活雑貨・家具・インテリア販売のEC化率は28.25%となっています。この数値は「書籍、映像・音楽ソフト」(46.20%)、「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」(38.13%)についで、全8カテゴリー中3番目に高い値です。また、物販系分野全体における生活雑貨・家具・インテリア販売のEC化率は8.78%です。
国内全体のBtoC-ECの市場規模(物販系分野+サービス分野+デジタル分野)のなかでも、物販系分野は過半数以上を占めていることから、生活雑貨・家具・インテリア販売のEC化率は全体的にも高い部類に入ると考えられます。
家具全体の市場概況
株式会社矢野経済研究所の調査によると、2020年の家庭用・オフィス用家具市場は前年比98.7%の1兆373億円とされています。内訳としては、家庭用家具の市場規模は6,770億円(前年比102.0%)、オフィス用家具の市場規模は、3,603億円(前年比93.2%)となっています。2020年は新型コロナウイルス感染症によって、テレワークを実施する企業が増えたことにより「巣ごもり需要」が追い風となって、家庭用家具の市場規模が拡大しました。一方、同様の理由でオフィス家具は需要が低下して市場が縮小したと考えられます。
家庭用・オフィス用家具市場に関する調査(2022/01/20)
ECでの市場規模が拡大した要因
経済産業省は日本における個人消費が横這い傾向のなか、拡大し続けている物販系分野のBtoC-EC市場規模の成長率は高いと評価しています。そのなかでも上位4カテゴリーに入っておりEC化率も高い「生活雑貨・家具・インテリア販売」は、特に着目すべき市場といえるでしょう。同カテゴリーがEC市場で規模を拡大している2つの要因を解説します。
コロナ禍でのライフスタイルの変化
生活雑貨・家具・インテリア販売のEC市場規模は、2019年から2020年にかけて顕著に拡大しました。2019年のECの市場規模は1兆7428億円(前年比8.36%)だったのに対して、2020年は2兆1322億円で前年比は22.35%となっています。この成長の大きな要因になったと考えられているのが、2020年に発生した新型コロナウイルス感染症の流行です。前述のとおりコロナ禍ではテレワークや在宅勤務を導入する企業が増えました。さらに外出を控える風潮が強かったことも加えて、平日・休日を問わず自宅で長時間過ごすライフスタイルが定着したと考えられています。そのため、従来よりも自宅に「快適性」を重視する傾向が強まり、デスクやチェアといった家具の買い替え需要が高まりました。さらに10万円の「特別定額給付金」を家具の購入費用にあてる人もいたと考えられます。
また、一般的に大型家具は店舗や展示場で実物を見てから購入する人は少なくありません。しかし、コロナ禍では外出しにくい風潮だったことからECサイトで購入した人も増えたと考えられるでしょう。新型コロナウイルス感染症の流行が落ち着いた2020-2021年の前年比が6.71%と緩やかになっていることからも、「巣ごもり需要」の影響が大きかったと予想できます。
技術革新によるネットでの購入需要の増加
家具全体の市場規模が鈍化(横ばい)に対して、ECでの市場規模は成長曲線を描いています。大型家具などは「実物を見て購入したい」という消費者心理が一定数存在するため、さらにEC市場を拡大させるためにはそのような消費者に対する施策も必要になるでしょう。例えば、AR(拡張現実)によって、自宅に家具を設置したイメージをスマホで簡単に確認できるようなサービスを展開することで、ECサイトで購入する際の「抵抗感」を薄める取り組みを行っている企業があります。同施策は家具メーカーのLOWYAが自社ECサイトで行っているほか、Amazonや楽天といったECモールでも一部導入されています。AIを活用することで、個々の消費者の趣味趣向に適した家具を紹介する技術も進化しており、さまざまなアプローチ方法でネットでの購買需要の増加を図っています。
3大ECモールにおける家具市場規模推移
ここでは2019年から2022年まで、年間のECモールにおける家具ジャンルの売上市場規模と販売数量の推移をNint ECommerceのデータで確認します。
3モール合計の売上規模は、2019年に比べ2022年には約336%へ成長となりました。収納家具が主な商品だったことが、コロナ禍の中で家具やテーブルなどの大型家具の購入が活発になったことで、単価上昇に繋がり、市場全体の売上規模成長に貢献しました。
一方、販売数量は2022年になり落ち着きを見せています。2022年はオフライン店舗の営業も感染対策を講じながら通常営業に戻った影響だと思われます。ただし、上記の記述した通り、大型で高単価の家具の購入が活発になったことにより、売上規模は成長を続けています。
ECサイトの普及拡大が家具の市場における重要なポイント
ECサイトを活用することで、ショールームのスペースを削減できるほか、実店舗では難しい色違いや素材違いの家具も消費者に提案しやすくなるなど、増収増益を実現するためのさまざま施策を実施できます。ただし、高級ブランドから低価格帯の商品まで幅広い業者がECサイトを展開しているため、差別化を図るためのブランディングをSNSやインターネット上で行うなど、ECサイトならではのポイントを押さえたWebマーケティングも求められるでしょう。作成者
趙 恵善(Cho Hyesun, ERP Div.マーケティングUnit)
編集者
Nint Blog 編集長 加藤 洋平(Kato Yohei, ERP Div.カスタマーサクセスUnit)
各社の広告・販促戦略を反映する売上や単価の動きの詳細はNint ECommerceで確認できます。
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Nint ECommerceは、大手ECモール(楽天市場、Yahoo!ショッピング、Amazon)の公開データを独自技術で集計し、商品カテゴリ別の流通額やメーカー別シェア、モールに出店する企業の商品毎の売れ筋商品や広告施策の動向分析といった市場動向データを提供することで、EC運営の意思決定をサポートします。
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