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EC防災用品市場の動向と最新トレンド【2023〜2025年データ分析】

防災用品市場2025年の最新動向──備蓄が日常化する時代へ

EC防災用品市場(3大ECモール合算・推計値)は、2024年に前年比3.3倍という大幅な成長を記録しました。2025年は前年の勢いが落ち着いたものの、2023年比で約2倍の水準を維持しており、一過性のブームではなく「市場の底上げ」が起きていることがデータから読み取れます。

本記事では、Nint ECommerceのデータをもとに、2023年〜2025年のEC防災用品市場を「市場規模」「月次トレンド」「売れ筋商品」「注目カテゴリ」の4つの切り口で分析し、2026年の見通しについても触れていきます。

2024年EC防災用品市場が前年比3.3倍に急成長した理由

図1:EC防災用品市場 年間推移(2023年〜2025年)

2024年のEC防災用品市場は、売上指数が前年比で約3.3倍(2023年=100に対し334.8)に達しました(図1)。
この急成長を引っ張ったのは数量の増加です。数量指数は2.6倍(263.4)と大幅に伸びており、平均単価も約3,700円から約4,700円へ27%上昇しました。つまり「買う人が大幅に増え、かつ1件あたりの購入金額も上がった」という、数量・単価がそろって伸びる形での急成長です。

直接のきっかけは、2024年1月1日の能登半島地震(M7.6、最大震度7)です。発災直後から防災用品の需要が一気に跳ね上がり、さらに8月には南海トラフ地震臨時情報が史上初めて発表されるなど、防災意識を大きく刺激する出来事が立て続けに発生しました。

2025年は前年の勢いが落ち着き、売上は約41%減少しています。ただし、2023年比では依然として約2倍を維持しています。伸びの中心は引き続き数量増(+66%)であり、単価の上昇幅は+19%にとどまります。このことから、「高い商品に切り替えた」のではなく、「防災用品を買う人そのものが増えた」ことが、この市場が伸びた一番の理由と言えます。

災害報道が防災グッズ売上を3.6倍に押し上げる──月次データで読む市場変動のメカニズム

ここまでは年間の数字を見てきましたが、防災用品は「いつ売れるか」の月次パターンに最も特徴が表れるカテゴリです。ここからは月次の動きに注目してみます。

図2:EC防災用品市場 月次売上推移(2023年〜2025年)

図2は、各年の平均月間売上を100としたときの月ごとの振れ幅を示しています。
2023年の防災用品市場は季節的な偏りが比較的小さく、9月の防災の日前後にピーク(指数141)がある程度でした。ところが2024年は様相が一変します。

1月(能登半島地震)に指数219と年間最大の山を記録し、その後は3月・6月にも小さな山が見られました。
そして8月(南海トラフ臨時情報)には月平均の約3.6倍となる指数365に急騰。さらに2025年7月にはSNSで拡散された「2025年7月大地震予言」デマの影響で、新たな売上の山ができました。科学的根拠のないデマが航空便の欠航にまで至ったこの事例は、SNS情報が防災消費を左右する時代になったことをよく表しています。

3月の防災グッズ需要は3年連続で高水準──東日本大震災の追悼が購買行動を動かす

注目すべきは、3月が3年とも安定して高水準であることです。東日本大震災の追悼時期が「毎年の防災備蓄の定期イベント」として機能していると考えられ、消費者の意識が「災害直後の衝動買い」から「年間を通じた備え」に少しずつ変わってきている様子がうかがえます。

防災グッズの売上構成比:携帯トイレ・非常食が全体の約6割を占める理由

図3:EC防災用品市場 カテゴリ別売上構成比(2023年〜2025年)

図4:EC防災用品市場 カテゴリ別数量構成比(2023年〜2025年)

カテゴリ別の売上構成比を見ると(図3)、携帯・簡易トイレが2023年の31.8%から2024年に40.1%へ急伸し、2025年も36.1%でトップを維持しています。一方、防災セット(リュック型の一式セット)は33.2%から30.2%へ縮小傾向にあります。

数量ベース(図4)ではこの傾向がさらにはっきりしていて、携帯トイレと非常食だけで約8割を占めています。防災セットは売上では約30%のシェアがありながら、数量では12〜16%しかありません。1件あたりの金額が高い分、買われる数自体は少ないカテゴリということです。

この構成の変化は、「最初にセットをまとめて買う段階」から「必要なものを個別に買い足す段階」へと、消費者の買い方が変わってきていることを反映していると考えられます。防災セットは文字通り「セットで買って一巡する」商品であるのに対し、携帯トイレや非常食は消耗品として継続的に購入される性質があります。

防災グッズ売れ筋ランキングの変化:上位10品目の8割をトイレ用品が占める現実

図5:EC防災用品市場 売れ筋TOP10 変遷(2023年〜2025年)

売れ筋TOP10の変遷を見ると、カテゴリの顔ぶれが3年間でどう変わったかが一目瞭然です(図5)。
2023年はトイレ関連が4品、非常食が3品、防災セットが3品。2024年にはトイレが6品に増加し、2025年にはついに8品を占めるに至りました。

この背景には、能登半島地震で「断水時にトイレが使えない」という切実な問題が広く報じられたことがあります。特に避難所でのトイレ環境の劣悪さは大きな社会問題となり、「水・食料の備蓄はあるが、トイレのことは考えていなかった」という層が一気に購買行動に動きました。

携帯トイレは「大容量」が主流に──50回セットから120回セットへのシフトが示す消費者意識の変化

図6:EC防災用品市場 携帯トイレ 回数セット別売上構成比(2023年〜2025年)

TOP10の主役となった携帯トイレについて、さらに踏み込んでみます。売上TOP50の商品を回数セット別に分類したのが図6です。
2023年には50〜99回セットが40.9%で一番売れていましたが、2025年には16.6%まで縮小。代わりに100回以上が32.4%から57.2%へと大幅に拡大しました。特に120回セットの伸びが目立っており、ある新興メーカーの120回セットが2025年にAmazon・楽天の双方で売上1位を獲得しています。

この大容量シフトが起きた理由はシンプルです。100回以上のセットでも約5,000円台であり、50回セット(約4,000円)との差額がわずか1,000円程度。回数は2倍以上なのに価格差はごくわずかという設定が、消費者の「それならまとめて買おう」という判断を後押ししています。

震災経験者からは「水回りが特に困る」という声が多く聞かれます。携帯トイレは防災用途だけでなく、車載用・アウトドア・介護など汎用性が高いことも買い足し需要を支えている要因です。「防災がきっかけで知って、日常でもリピートする」という購買行動の広がりが、大容量シフトの背景にあると考えられます。

まとめ:EC防災用品市場の変遷と今後の見通し──データが示す2026年への展望

本記事で明らかになったポイントをまとめます。

  • EC防災用品市場は2024年に2023年比3.3倍に急成長。2025年も約2倍を維持し、市場の底上げが定着した
  • 月次売上は地震・災害報道と強く連動する「ニュース駆動型」。3月(3.11追悼)は3年連続で安定上昇月として機能している
  • カテゴリ別では携帯・簡易トイレが売上トップに浮上。数量ベースでは非常食と合わせて約8割を占める
  • 売れ筋TOP10のうち8商品がトイレ関連(2025年)。能登半島地震でのトイレ問題が認知を一変させた
  • 携帯トイレは50回→120回セットへ大容量シフトが進行。防災に限らず車載・介護など用途が拡張している
  • メーカー構成はTOP5でもシェア5〜10%と分散しており、新興勢力が参入しやすい状況が続いている

需要の定着と次の成長トリガーを読む

2026年の市場規模は、特段の大型災害がなければ2025年並み(2023年比1.5〜2倍)を維持する可能性が高いと見ています。2025年12月の青森県東方沖地震(M7.5)を受けて、「北海道・三陸沖後発地震注意情報」が制度開始後初めて発表されるなど、行政の「備え喚起」の枠組みが拡充されていることも下支え材料です。

非常食の5年保存品が更新サイクルを迎える時期であること、ローリングストック(食べて買い足す備蓄法)の実施率が過去最高を更新していることを踏まえると、非常食の定期補充需要が市場の安定基盤として機能し続けるでしょう。携帯トイレは用途の拡張によって防災カテゴリの枠を超えた成長が期待されます。

一方、次の大型地震や災害が発生すれば再び売上が急増するのは確実です。ただし2024年の経験から、「底が2023年の水準に戻ることはない」──防災用品は、もはや消費者にとって「あれば安心」から「なければ不安」な存在に変わりつつあります。

本記事で使用したデータの出典・調査方法について

本記事では、EC市場のデータ分析サービス「Nint ECommerce」の推計データを使用しています。記事中のメーカー名・商品名はすべてマスキング(匿名化)しており、実際の売上金額は掲載していません。
「具体的にどのメーカー・商品が売れているのか知りたい」「実際の市場規模を数字で確認したい」「自分でデータを見て分析してみたい」──そうしたご関心をお持ちの方は、ぜひNint ECommerceの詳細をご確認ください。

※データの数値は推計値であり、実際の値とは異なる場合があります。

この記事を書いた人

山本 真大(やまもと まさひろ)
株式会社Nint マーケティングDiv ECアナリスト

note:https://note.com/nint_ecommerce

株式会社明治の菓子営業としてキャリアをスタートし、主に店頭での販促施策を担当。その後IT業界・流通業界・他業界のメーカー職を経験し、オフライン市場における、製造・流通に携わる。EC業界の今後に魅力を感じ株式会社Nintへ入社。営業・カスタマーサクセスを経て現在、ECデータアナリストとして、数々のブログや電子書籍の執筆、セミナー登壇に関わる。
セミナー登壇数は20を超え、オフラインの経験とオンラインのデータ分析をもとにした、セミナー内容は参加者からも好評をいただいている。

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