本谷知彦連載第5回:家電EC市場の状況と展望 ~主要4家電ごとに異なる状況~

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本谷 知彦(もとたに ともひこ)
株式会社デジタルコマース総合研究所 代表取締役 ECアナリスト
シンクタンク大和総研にて国内外の産業調査・コンサルティング業務にチーフコンサルタントとして従事。EC業界のスタンダードな調査レポートである経済産業省の電子商取引市場調査を2014年から2020年にかけて7年連続で責任者として手掛ける。2021年末に同社を退職し2022年初に株式会社デジタルコマース総合研究所を設立。EC市場の調査研究はもとより、データに基づいた消費財のマーケット分析や事業戦略のアドバイスに関する実績多数。
経済産業省の電子商取引市場調査によれば、「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」の2023年のEC市場規模は2兆6,838億円となっています。EC化率は42.88%であり、他のカテゴリーと比較して大幅に高い点が本カテゴリーの大きな特徴的です。換言すれば、家電はECとの親和性が高いカテゴリーであると言えるでしょう。
ただし、EC化率の高さは裏を返せばEC市場の伸び代がそれほど大きくないことを意味します。そのような状況下、家電のEC販売が2024年1月以降どのように推移しているのか、Nint ECommerceを用いて考察したいと思います。尚、考察対象は、エアコン、テレビ、洗濯機、冷蔵庫の主要4家電とし、期間は2024年1月から2025年4月までの各月の前年同月比とします。
本コラムの内容が皆様のEC事業にとって有益なものとなりますことを心より願っております。
目次
家電の特徴はネットでの事前探索がEC購入に結び付きやすい点
はじめに、家電EC市場の特徴について押さえておきましょう。家電は製品の機能や仕様がネット上で公開されていることが大半であり、購入前にあらかじめそれらを調べておくことで、製品への理解が進みます。また家電は価格比較サイトや口コミの情報も多数存在しており、ネットでたくさんの情報を事前に得ることができます。
もちろん実店舗の店員との会話を通じて、製品に関する情報を得る消費者も多いでしょう。しかしながらアパレルやコスメ、食品などと比較すれば、家電は事前の情報探索によってある程度十分な情報を得ることができるため、そのままECでの購入につながりやすいと想定されます。
経済産業省発表の「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」の2023年のEC化率は42.88%と非常に高い値となっています。EC化率の高さは、まさに家電はECとの親和性が高いことの証でしょう。即ちネットでの事前の情報探索がECでの購入に結び付きやすい点が、家電の特徴と言えます。
家電の支出額は増加傾向
ECか実店舗かを問わず、個人消費における家電の支出金額の変化を押さえておきましょう。次のグラフは、1家計あたりの家電の年間支出金額に関する2014年から2024年までの推移です。この数値には、エアコン、洗濯機といった白物家電、およびキッチン家電、美容家電など全ての家電に関する支出額が含まれている点にご注意ください。
2015年は前年割れしたものの、2016年から2021年までは毎年支出額は増えています。特に2020年は前年比で大きく増えており、コロナ禍での特別給付金で家電が多く購入されたことを数値が物語っています。その後2022年は前年割れしていますが、これはその反動でしょう。2023年には再び増加に転じ、2024年も支出額はさらに増えています。
近年家電はキッチン家電、美容家電、時短家電など多品種になっており、家電全体で消費者ニーズが分散していると思われます。ゆえに消費者の支出が極端に減る可能性は低く、市場規模は安定的と私は予想しています。一方で、家電も電子部品などの価格上昇により販売価格自体が上昇している模様です。安定的な消費者ニーズが市場の下地となっているため、販売価格が上昇しても市場が崩れる可能性は低く、2025年以降も家電の支出額は増加すると予想されます。
1家計あたりの家電の年間支出金額の推移(単位:円)

エアコンは「猛暑」「補助金」「買い替え需要」で好調
Nint ECommerceを用いて、3大ECモール(楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピング)合計でのエアコンの流通総額を算出し、前年同月比の推移を作成してみました。2024年1月と8月はマイナスになったものの、他の月は増加していることが分かります。主要4家電合計では、2024年前半はとても苦戦しましたが、エアコンに限っては2024年の初頭より好調を継続していることが分かります。
好調な理由に、同年が猛暑であったことによる需要の増加が挙げられます。また政府や自治体による省エネエアコン購入の補助金も効果があったと想定されます。加えて、2024年は消費税が5%から8%へ増税となった2014年から数えて10年目であり、増税前の駆け込み需要によって購入されたエアコンが10年を経過し、買い替え需要が高まったタイミングでもあったと考えられます。
2025年も猛暑が予想されています。かつ政府や自治体による補助金の実施や、買い替え需要等ポジティブな要素も加わって、2025年もプラスに推移すると私は予想しています。
3大ECモールの流通総額に関する前年同月比の推移 ~エアコン~

テレビは一進一退で推移
テレビの販売は、グラフを見る限り一進一退を繰り返しています。2024年の10月はAmazonでのテレビ販売が伸びているのですが、恐らくプライム感謝祭におけるセールが活況だったのではないでしょうか。11月の大幅な落ち込みは、前述の通りブラックフライデーの開始タイミングによるものでしょう。
テレビについては4K放送/8K放送と言ったように映像の高精度化が進んでおり、それによる消費者ニーズの喚起が期待されています。一方で、テレビ広告費がネット広告費を下回る時代になっていることが象徴するように、テレビ視聴時間が以前よりも減少していると思われます。仮にそれが正しいとした場合、結果的にテレビの販売に影響が生じます。
またエアコン同様に、テレビも2014年の消費税増税前の駆け込み購入から起算して10年が経過しています。買い替え需要の波が到来しても不思議ではありませんが、データを見る限り必ずしもそうとは思えません。その理由には、2020年のコロナ禍において、前倒しで買い替えが生じた可能性が想定されます。上述の通り消費者のテレビ離れが進行しているとなれば、今後の見通しは決して楽観視できないでしょう。
3大ECモールの流通総額に関する前年同月比の推移 ~テレビ~

不調から脱却したと見られる洗濯機と冷蔵庫
洗濯機に関しては、2024年は8月まで不調が続いていましたが、9月からはプラスに転じました(※11月を除く)。2025年に入ってもプラスを維持していますので、不調から脱却したように見えます。また冷蔵庫も洗濯機と似た動きをしており、2024年の8月までは不調が続いていましたが、こちらも復調の兆しが見られます。ただし9月以降の動きを見ると、洗濯機と比較し冷蔵庫はプラスとなった月は2024年9月と2025年3月のみです。両者は似たような動きをしていますが、冷蔵庫は完全に復調したとまでは言い切れません。
両者とも2024年が不調であった理由は、消費者のリアル回帰が理由であったように思われます。前述の通り家電とECは親和性がありますが、洗濯機と冷蔵庫は使い勝手が重視されるため、実店舗で現物を見たいと考える消費者心がリアル回帰のトレンドにマッチしたのではと想定されます。
ともあれ、両者は復調の度合いに差があれども、不調から脱却した状態ではあるため、2025年以降の販売動向に注目したいと思います。
3大ECモールの流通総額に関する前年同月比の推移 ~洗濯機~

3大ECモールの流通総額に関する前年同月比の推移 ~冷蔵庫~

Nint ECommerceについて

家電EC市場の動向を把握し、需要の変化に迅速に対応するには、正確で網羅的なデータの活用が欠かせません。
Nint ECommerce では、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピングの3大モールにおける売上推移や商品ランキング、価格変動、キーワードのトレンドなどを詳細に把握できます。
家電カテゴリごとの販売状況や競合製品の動きを捉えることで、より戦略的な商品企画・販促施策の立案が可能です。
エアコン、テレビ、洗濯機、冷蔵庫などの市場データを分析し、自社のEC戦略に活かしたい方は、ぜひNint ECommerceをご活用ください。
■調査概要・免責事項
・本調査は、Nint ECommerceを用い、国内の3大ECモールである楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピングを対象として調査しました。
・レポートを利用することにより生じたいかなるトラブル、損失、損害等について、当社は一切の責任を負いません。
■調査対象
Nint推計データ
Nint推計データは、AIやクローリングなどの技術により⽇本国内の3⼤ECモールで販売される商品の売上⾦額・販売数量を⾼精度に推計したデータに、サイト内でのプロモーションデータ等を加えた、EC市場の総合的な分析を可能にするビッグデータです。
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【出典:「本谷知彦第5回:家電EC市場の状況と展望 ~主要4家電ごとに異なる状況~」(2025年6月12日公開)】
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