「シャワーヘッドは、実は春に動く」——アイリスオーヤマが新規カテゴリの“打率”を上げる、投資判断としてのデータ活用

アイリスオーヤマ株式会社 東京R&Dセンターでのインタビュー

アイリスオーヤマ株式会社

従業員数: 6,000人以上

理美容事業部 事業部長 筒泉 佳菜子さま
メーカー管理本部 副部長 木村 晴伸さま

アイリスオーヤマ株式会社について

アイリスオーヤマ株式会社は、生活用品や家電、食品まで幅広く手がける総合メーカーです。本社は宮城県にあり、開発拠点を宮城(角田)・大阪・東京に構えています。「まず生活者目線でアイデアを出し、その裏づけにデータを活用する」という考え方でものづくりを進めてきました。そのなかでも理美容機器は同社にとって比較的新しい事業領域で、サブブランド「MiCOLA(ミコラ)」を軸に新しい顧客接点づくりに取り組んでいます。

今回は、理美容事業部 事業部長の筒泉佳菜子様、ならびにメーカー管理本部 副部長の木村晴伸様にお話を伺いました。

ご登場者プロフィール

アイリスオーヤマ株式会社 理美容事業部 事業部長 筒泉佳菜子様

筒泉 佳菜子 様 理美容事業部 事業部長
家電の商品開発出身で、理美容事業部の事業部長として、事業企画・商品企画・販売促進の企画をディレクションし、新規カテゴリの立ち上げを担う。

アイリスオーヤマ株式会社 メーカー管理本部 副部長 木村晴伸様

木村 晴伸 様 メーカー管理本部 副部長
メーカー管理本部の副部長として、各事業のマーケティング活用を横断的に見る立場にある。

「ゼロから1」の企画に、比較する材料がなかった

私はもともと家電の商品開発出身で、マーケティング畑の人間ではありません。理美容は社内でも新しいカテゴリなので、「既存商品のリニューアル」という軸がほとんどなく、アイデアも企画も、いつも「ゼロから1」です。裏を返すと、判断のよりどころになる自社の生データや、過去の類似事例の蓄積がとても少ない。Nintを使う前は、お客様であるECプラットフォーム事業者にヒアリングしたり、自社の販売実績や市場シェアから逆算したり——人海戦術で市場像を推計していました。労力はかかりますし、担当が違えば見える景色も変わってしまう。新規カテゴリほど、比較する“ものさし”がないまま、判断の入り口に立つまでが、いちばん大変だったんです。

決め手は「一つの数字」ではなく、「見方の多さ」だった

Nintに触れて驚いたのは、情報の量そのものよりも、見方・切り口の多さでした。ECマーケットを横断的に見渡して、市場規模の整理から競合の動きまで、いろいろな角度でデータを引ける。私のように新規事業で自社データが少ない立場だと、この「多角的に見られる」ことが、何より効いてきます。

市場データを一から自分たちで論理的に組み立てようとすると、最初の取っ掛かりにものすごく時間がかかる。その最初の一歩を、どれだけ早く仮説の形にできるか——そこがこういうサービスのいちばんのメリットだと感じています。

精度は、あくまで推計値である前提で使っています。ただ、順位や相対比較で見れば大きくは外さない。「何個売れる」の裏づけではなく、「どこにどう勝ちにいくか」というポジショニングを組み立てる土台として、十分に信頼できるデータだと捉えています。

日々は、だいたいこの順番で見ている

チームとしては、ほぼ毎日画面を確認しています。厳密に決めた手順があるわけではないのですが、振り返ると、だいたい同じ順番で見ていることが多いんです。

まず、業種・ジャンル分析で、そのカテゴリがEC内でどれくらいの規模なのかを俯瞰します。次に、月別の売上・販売量推移で市場トレンドの山と谷をつかみ、チャンスロスを防ぐ。そのうえで競合を「価格帯×売上×販売量」の三軸で並べ、どの価格ゾーンが空いているのかを読み解きます。最後に、規模の大小だけでなく“いつ需要が動くのか”を、推移から読み取る。引いた数値はそのままExcelに落として、社内で議論しながら切り口を変え、自社の生データと突き合わせて裏を取ります。Nintで仮説を立て、自社データで検証する——この往復を、日々回しています。

インタビューに答えるアイリスオーヤマ 理美容事業部 事業部長 筒泉佳菜子様

「絶対値の市場規模」で、投資は決めない

私のカテゴリは「ゼロから1」なので、企画は驚くほど残りません。アイデアを出して仮説を立て、決裁にかけようという段階まで煮詰まるのは、あまり多くはありません(社内のプロセス感覚なので、あくまで目安として受け取ってください)。だからこそ、決める前の「ふるい落とし」の質が、重要であると考えています。

ここで私が大事にしているのは、絶対値の市場規模で決めない、ということです。「何億円の市場だからやる」という判断はしません。過去の推移や、類似カテゴリの成長のアップダウンと照らし合わせて、アイデアで感じた『これから伸びそう』という肌感と、データがマッチするか。そこを見て、成長性の見込めるカテゴリなのか、一時的で限定的なニーズなのかを見極めます。

検証が甘いまま、それっぽいロジックだけで商品化まで持っていくと、結局売れないことが多い。その手前でデータを使ってふるい落とせるようになって、「売価設定を誤った」「見るべき競合を見落としていた」といった手戻りが、体感として以前より減りました。

「繁忙期こそ売れる」は、本当か——シャワーヘッドが教えてくれたこと

いちばん分かりやすい例が、シャワーヘッドです。美容機器は年末やボーナス期、大型セールでトレンドが上がる——当初はシャワーヘッドも、その一般的な動きに乗る商品だと思い込んでいました。ところがデータと市場を見比べていくうちに、実は春に動くのではないか、という気配が見えてきたんです。入浴からシャワーだけで済ませる生活に切り替わり、買い足し・買い替えが増える。最低限のものを揃えたあとに「シャワーの質」が欲しくなる、新生活の“第2期”のニーズとも重なるタイミングでした。

面白いのは、この動きがECだと読み取りやすいことです。もしセールだけで押し上げているなら、その前後で一度下がるはず。その谷が来ずに売れ方が“維持”されるところに、美容機器一般のトレンドとの差異——お客様のニーズのタイミングが、そのまま表れる。

この時期は、店頭でいうと新生活商戦が一段落した「端境期」にあたります。各社が売りたい時期は重なりますから、優先度の高くない商品は、盛り上がる時期には棚を取ってもらいにくい。そこで、あえて混み合う時期を外し、シャワー浴のニーズが立ち上がる端境期に販促を仕込んでみました。カテゴリによって差はありますが、需要期の外にも、しっかりと販売の山を作ることができたと感じています。データで需要のタイミングを先に読めたからこそ、賢く攻めどころを選べた——そういう事例です。

インタビューに同席するアイリスオーヤマ 木村晴伸様と筒泉佳菜子様

データで打率を上げ、時に「賢く見送る」

こうした使い方を続けるなかで、実務担当者レベルで言えば、企画の立ち上がりは体感で少なくとも2〜3割はスピードアップしたと思います。以前は週に一度しかデータを揃えて仮説を立てられなかったのが、複数回立てられるようになった、という手応えです。

もう一つ大事にしているのは、Nintで見て「これは育たない」と分かったら、賢く見送るという判断です。攻めるのと同じくらい、見送りの精度を上げることが、限られたリソースを本命に集中させることにつながります。

今後の展望——「手の届く美容」の新しい接点をつくる

これから力を入れていきたいのが、美容家電ブランド「MiCOLA(ミコラ)」です。これまで当社が接点を持ちきれていなかったのが、比較的若い女性のお客様でした。美容の世界は極端にトレンドが振れて、高価格帯ばかりが発言力を持ちがちですが、その一方で「やらなきゃと言われるけれど、手が届かない」という思いを抱える方も少なくありません。

私たちのものづくりとアイデアの力で、その歪みを埋めたい。ニーズのあるお客様がどこにいて、何を、いつ欲しがっているのか——それをデータと照らし合わせて、適正な価格設定で、実質的な価値を届けられる。そんな「新しい美容との接点」になるブランドを育てていきたいと考えています。手当たり次第のチャレンジではなく、データで打率を上げながら、その挑戦を続けていきたいですね。

アイリスオーヤマ株式会社の筒泉さまにお話を伺いました。本日はありがとうございました。

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