本谷知彦連載第6回:2025年上期のEC市場を誰よりも早く考察してみた

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本谷 知彦(もとたに ともひこ)
株式会社デジタルコマース総合研究所 代表取締役 ECアナリスト
シンクタンク大和総研にて国内外の産業調査・コンサルティング業務にチーフコンサルタントとして従事。EC業界のスタンダードな調査レポートである経済産業省の電子商取引市場調査を2014年から2020年にかけて7年連続で責任者として手掛ける。2021年末に同社を退職し2022年初に株式会社デジタルコマース総合研究所を設立。EC市場の調査研究はもとより、データに基づいた消費財のマーケット分析や事業戦略のアドバイスに関する実績多数。
振り返れば2024年はEC市場にとって消費者もリアル回帰など厳しい状況が続いた年であったように思われます。しかし本年1月31日お届けした第2回のコラムでは、2024年のEC市場は前半不調であったものの、後半盛り返し、そのプラスの流れが2025年は当面継続するのではと私は予測しました。
となれば、今年の上期(1月~6月)のEC市場はどのような状況であったのか気になるところです。そこで2025年も半分が経過したこのタイミングで、Nint ECommerce等の具体的なデータを用いて上期のEC市場を誰よりも早く考察したいと思います。
本コラムの内容が皆様のEC事業にとって有益なものとなりますことを心より願っております。
目次
25年上期の3大ECモールの流通総額は好調な結果に
2025年上期(1月~6月)の3大ECモール合計の流通総額に関する前年同月比の月別推移をグラフ化してみたところ、以下の通りとなりました。全ての月において2024年を上回っていることから、2025年の上期は好調であったことがわかります。特に5月は21.7%と大幅な上昇となっている点が特徴的です。
5月に大幅に上昇したのは、Amazonの流通総額が伸びたことが主因のようです。具体的にはアパレル・服飾雑貨、およびスポーツ&アウトドア、おもちゃ、ホビーが前年同月比で大きく伸びています。同月には「Fashion×お出かけタイムセール祭り」を実施していますので、その効果があったものと思われます。
上期が好調であったことから、引き続き本年の下期(7月~12月)も3大ECモールの好調維持が期待されます。3大ECモールの流通総額は国内のEC市場規模の約7割を占めています。よって3大ECモールが好調であると、自ずと国内のEC市場全体の活性化につながります。下期の動向にも着目したいと思います。
【2025年上期】3大ECモール合計の流通総額に関する前年同月比の月別推移

アパレル・服飾雑貨、食品、家電が10%以上も上昇
続いて2025年上期(1月~6月)の3大ECモール合計の流通総額に関し、次の通り4カテゴリー別に集計し2024年からの伸び率を計算してみました。4カテゴリー全てにおいてプラスとなっています。アパレル・服飾雑貨、食品、家電は10%以上の高い伸び率となっていますが、アパレル・服飾雑貨については「Fashion×お出かけタイムセール祭り」の効果があったことが伸びた要因でしょう。
食品については物価高騰の影響を受けていますので、実質的に10%程度の伸び率と推測されます。家電も電子部品の不足や原材料価格の高騰等のあおりを受けていますので、実質的には伸び率は10%を少し下回るレベルではないでしょうか。とはいえ高いぼ伸び率であることに変わりはありませんので、複数のカテゴリーで好調であったことが分かります。
【2025年上期】3大ECモールのカテゴリー別流通総額に関する前期比

政府統計でも1家計あたりのEC支出の増加が判明
ここで、EC市場全体の状況についてチェックしてみましょう。次の表とグラフは、総務省家計消費状況調査における1家計あたりの月別EC支出額、および2025年の月ごとの伸び率(前年同月比)です。尚、本コラムの執筆時点で2025年5月が最新データとなっている点、予めご了承ください。
月を追うごとに前年同月比が上昇していることが分かります。つまり2025年に入りECでの支出が増加していることを意味します。このデータはアンケートに基づくものであるため、あくまでも参考値ではありますが、このデータからもEC市場は2025年に入ってから上向いていると考えられます。
上述の通り、Nint ECommerceを用いた3大ECモールの2025年上期は2024年より確実に増えています。各月の前年同月比の値は異なりますが、Nint ECommerceおよび総務書家計消費状況調査という二つのデータから、2025年のEC市場は確実に上向いていることが理解できるでしょう。
1家計あたりの月間EC支出額の推移(単位:円)

【2025年上期】1家計あたりの月間EC支出額に関する前年同月比の推移

25年上期は宅配便個数も伸びている
上述の通り、2025年上期のEC市場は前年同期間よりも伸びているようです。そこでさらにその状況を確かめるべく、宅配便の個数の伸びでも検証してみましょう。次の表はヤマトホールディングス、SGホールディングス、日本郵便各社が発表しているそれぞれの宅配便個数の合計、および2025年の月ごとの伸び率(前年同月比)です。尚、本コラムの執筆時点で2025年5月が最新データとなっている点、予めご了承ください。また、宅配便個数は全てECによるものではなく、EC以外の配送分も全体の半分ほど含まれている点にご留意ください。
2月がマイナス1.3%となっていますが、2024年はうるう年であったため2025年の2月は2024年より1日少なかったことが原因であると思われます。その点を考慮すれば、2月の宅配便個数も確実にプラスになっているものと推測できます。その他の月は全てプラスとなっていますので、やはり宅配便個数の面からも2025年の上期のEC市場は前年より確実に伸びていると言えるでしょう。
宅配便大手3社合計の宅配便個数の推移(単位:億個)

【2025年上期】宅配便大手3社合計の宅配便個数に関する前年同月比の推移

まとめ
今回のコラムでは、2025年上期のEC市場について次のことがわかりました。
- 3大ECモール合計の流通総額は前年と比較し全ての月で増加しています。
- 食品、アパレル・服飾雑貨、コスメ、家電の4カテゴリー全てにおいて前年比プラスとなっています。特にアパレル・服飾雑貨、食品、家電は10%以上の高い伸び率となっています。
- 政府統計から、1家計あたりのEC支出も前年を上回っていることがわかりました。
- 加えて、宅配便個数も前年を上回っていることがわかりました。
以上のことから、2025年上期のEC市場は2024年と比較し確実に増加していると言ってもよいでしょう。
コロナ禍で急拡大したEC市場ですが、コロナの終息と共にこの2~3年間は消費者にリアル回帰や競争激化等が原因で、厳しい状況に直面した事業者が多かったと認識しています。2025年上期の傾向を見ていると、そのまま下期も継続しそうな勢いであり、さらに2026年以降への期待も膨らみます。EC市場は下地(ファンダメンタル)は良い状態だと思われますので、あらためて売上拡大に向けEC戦略を練っていただければと思います。
Nint ECommerceについて

EC市場が上向いてきている今だからこそ、的確な意思決定のために、信頼できるデータの活用がより一層重要になってきています。
Nint ECommerceでは、楽天・Amazon・Yahoo!ショッピングの3大モールにおける流通総額や商品トレンド、価格推移などをカテゴリ別・モール別に詳細に把握できます。市場の変化をいち早く捉え、戦略をアップデートしたい方は、ぜひNint ECommerceをご活用ください。
■調査概要・免責事項
・本調査は、Nint ECommerceを用い、国内の3大ECモールである楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピングを対象として調査しました。
・レポートを利用することにより生じたいかなるトラブル、損失、損害等について、当社は一切の責任を負いません。
■調査対象
Nint推計データ
Nint推計データは、AIやクローリングなどの技術により⽇本国内の3⼤ECモールで販売される商品の売上⾦額・販売数量を⾼精度に推計したデータに、サイト内でのプロモーションデータ等を加えた、EC市場の総合的な分析を可能にするビッグデータです。
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【出典:「本谷知彦連載第6回:2025年上期のEC市場を誰よりも早く考察してみた」(2025年8月6日公開)】
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