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ヘルメット売上”10倍”の再来?──2026年道路交通法改正とEC市場の第二波を読む

2026年4月、道路交通法が改正され施行されます。
具体的な大きな変更点としては、自転車の交通違反に「青切符」(交通反則通告制度)が導入されることです。
今までは「注意」で済んでいた信号無視や一時不停止などの違反をした16歳以上の自転車運転者に対して反則金が科されるようになります。ちなみに罰則となる違反項目の数、なんと113項目! 自転車を普段から利用する方は何気ない行動が違反に当たらないか一度チェックされる方が良いかと思います。

この道路交通法改正、比較的しばしば起きている印象を受ける方も多いのではないでしょうか?そして、多くの方が気になるのは「前回の道路交通法改正時」に何が起きたのか」と「今回の影響」ではないでしょうか。

2023年4月の道路交通法改正では「全年齢層に対する自転車乗車時のヘルメット着用の努力義務化」が施行されました。それ以前は13歳未満の児童・幼児に対する保護者の着用努力義務にとどまっていたものが、全年齢に拡大された形です。

この法改正により、EC市場の大人用ヘルメット売上は3月の施行直前、4月の施行直後には前年同月比で約10倍にまで跳ね上がりました。

今回の青切符制度ではヘルメット未着用による反則金は設けられていないものの、努力義務違反は指導警告の対象となります。
であれば、再びヘルメット需要が動く可能性は十分にあるのではないでしょうか。

本記事では、前回の法改正を起点にEC市場のヘルメット市場で何が起きたのかをデータで追い、2026年春の市場展望を考察します。

※本記事のデータは特定ECモールにおける大人用・子ども用ヘルメットジャンルを対象としています。

全世代着用努力義務化でヘルメット市場はどう動いたか ── 大人用は月平均の約10倍に

まずは、大人用・子ども用ヘルメットの市場動向を「2021年1月の売上を100とした指数」で確認してみましょう。

図1:大人用・子ども用ヘルメット 月次売上推移(2021年〜2025年)
※出典:Nint ECommerce(推計値)

2023年4月、努力義務化が施行された月の指数は以下の通りです。

  • 大人用ヘルメットの売上指数 :約992(2021年1月比で約10倍)
  • 子ども用ヘルメットの売上指数 :約249(2021年1月比で約2.5倍)

大人用の伸びが圧倒的であり、子ども用との差がかなり開いていることがわかります。

ヘルメットの売上構成比の変化にも注目です。
・2021年時点_大人用が54%:子ども46%とほぼ半々
・2023年時点_大人用が78%:子ども22%に変化

その後も大人70%前後で定着しています。
市場の主役が明確に「大人」へ移行したことがわかります。

なぜ大人用ヘルメットは10倍成長し、子ども用は2.5倍成長だったのか

この差には構造的な背景があると考えられます。

子ども用ヘルメットは、2023年の法改正以前から着用努力義務の対象となっていた、13歳未満の子どもが着用することが想定されており、親の義務として「自転車に乗る子どもには安全性からも着用させたい」ニーズが定着していたと考えられます。これは、子ども用ヘルメットの売上が毎年「入学・進学・自転車デビューといったタイミング※3月・4月」での購入が上昇していることからも確認できます。
つまり、すでに一定の市場ベースが存在していたと考えられます。

一方、大人が日常的にヘルメットを着用して自転車に乗る習慣は、ロードバイク愛好者など一部の方に限られていました。この認識が2023年の法改正により努力義務となったことで「大人も被るべきもの」「大人が手本を示す」という認識が急速に広がり、これまで購入経験のなかった層が一斉に動いた。これが10倍という異常な数値の背景ではないでしょうか。「努力義務」でしっかりと動く大人の真面目さと日本人ならではの誠実さを感じる内容です。

ニーズが急上昇した2023年3月 ─ 一体何が売れたのか?

大人用ヘルメットの売上は、実際には2023年4月の施行を前に、3月から売上が急増しています。ここでは施行前の「3月」に焦点を当て、売上1位の商品推移とTOP300の価格帯構成を見ていきます。

図2:大人用ヘルメット 3月TOP1商品の変遷(2022年〜2025年)
※出典:Nint ECommerce(推計値)

各年3月の売上1位商品は以下の通りです。

2022年3月 海外ブランドA(中国系) 約4,986円

2023年3月 海外ブランドB(中国系) 約3,106円 ※昨年度49位→1位

2024年3月 国内大手メーカー 約4,780円 

2025年3月 SG認証ブランド 約2,059円

注目すべきは海外ブランドBです。2022年3月時点では49位だった商品が、翌年に一気に1位まで急上昇しています。
3,000円台という手に取りやすい価格帯が「とりあえず買っておこう」という需要層にうまくハマったと見られます。

2024年には国内大手メーカーが首位になり、2025年にはSG認証付きの低価格商品が1位に。2023年を皮切りに毎年トップ商品の顔ぶれが入れ替わっている点も、この市場の変化の激しさを物語っています。

価格帯の変化はどのように推移している?低価格帯へ急激なシフトが発生

次に、2022年と2023年の3月におけるTOP300商品の価格帯別売上構成比を比較します。

図3:大人用ヘルメット 3月の価格帯別売上構成比(2022年 vs 2023年)
※出典:Nint ECommerce(推計値)

特に特徴的な箇所をまとめると以下です。

価格帯  2022年3月 2023年3月
3,000〜5,000円台 5.3% → 90.2%
5,000〜8,000円台 86.8% → 3.1%

2023年3月は3,000〜5,000円台が売上の約9割を占めており、前年の5,000〜8,000円台中心から一気に低価格帯へシフトしたことがわかります。

2023年3月がどんな時期だったかを再度思い出すと、4月から「全世代ヘルメット着用努力義務」の道路交通法が施行される直前のタイミングです。
努力義務に向けた駆け込み需要→「とりあえず」揃える需要がこの価格帯に集中したと言えそうです。(駆け込みとりあえずニーズ)

その後の大人用ヘルメットの平均単価の推移は? ─ 急落からのV字回復

低価格商品への需要集中後、大人用ヘルメットの価格は再び上昇を示しました。

図4:大人用・子ども用ヘルメット 平均単価推移(2021年〜2025年)
※出典:Nint ECommerce(推計値)

大人用ヘルメットの平均単価は2021〜2022年に約5,100円前後で推移していましたが、2023年4月には約3,775円まで急落しました。前述の通り、3,000円台の低価格商品が大量に購入された結果です。
※なお、2023年6月以降の急上昇には低価格商品の欠品による影響も含まれています。
その後、じわじわと回復し、2024年後半には4,600円台まで戻しています。

一方、子ども用は2021年の約2,900円から2025年の約3,400円へ、急落・急回復なく緩やかに上昇を続けています。

なぜ大人用で平均単価がV字の動きを示すのに、子ども用ヘルメットは緩やかな上昇を示しているのか。この単価推移の違いには、消費者心理の差が反映されている可能性があります。

大人用は「自分のものだから安くていい」→「慣れてきたからちゃんとしたものを選ぶ」という心理状況が単価のV字回復として表れていると推察されます。一方で、子ども用は法改正前から常に「子どもには安全なものを」という意識が一貫しており、単価が安定的に推移していると考察します。

2025年の市場トレンド ─ SG認証と帽子型の台頭

2022年3月と2025年3月のTOP300を比較すると、2つの明確なトレンドが浮かび上がります。

図5:大人用ヘルメット 3月TOP300 SG認証・帽子型の推移
※出典:Nint ECommerce(推計値)

① SG認証商品の増加

2022年3月 2025年3月

TOP300内のSG認証商品数 12個 77個

TOP300での売上構成比 0.6% 4.7%
TOP300のアイテム構成比 4% 25.7%

② 帽子型ヘルメットの台頭
2022年3月 2025年3月

TOP300内の帽子型商品数 11個 50個

TOP300での売上構成比 0.5% 2.4%
TOP300のアイテム構成比 36.7% 16.6%


2025年3月の売上1位商品はSG認証付きで約2,059円。「安全性」と「価格の手頃さ」を両立した商品がトップに立っています。

SG認証商品と帽子型ヘルメットの伸長は、市場の成熟を示唆しています。初期の「とりあえず何でもいいから買う」というフェーズを経て、安全基準やデザイン性を重視した「選んで買う」段階へ移行しつつあるのではないでしょうか。
実際に、帽子型商品が売上TOP4にランクインしている点は、「見た目のハードル」を下げることが購買促進に直結する可能性を示しています。

日本メーカー vs 海外メーカー ── シェア推移

消費者のニーズが「とりあえず」から「質」へと変化してきている流れがある中で日本メーカー製と、海外メーカー製の売上シェア率に変化はあるのでしょうか?見ていきましょう。


図6:日本メーカー vs 海外メーカー 売上シェア推移
※出典:Nint ECommerce(推計値)

各年TOP20メーカーの売上構成比を「日本メーカー」と「海外メーカー」に分類した結果は以下の通りです。

大人用ヘルメット市場では2023年に日本メーカーの売上構成比が60%台へ低下しました。需要爆発に伴い、中国系を中心とした海外ブランドが低価格帯で一気に参入したタイミングです。
この参入は「駆け込みとりあえずニーズ」に応える選択肢を消費者に提供し、市場拡大の一翼を担った側面もあります。

しかし、需要の落ち着きとともに海外勢のシェアは縮小に転じました。
中国系主要3社の合算シェアは2023年の13.0%から2025年には4.8%にまで低下しています。その後、日本メーカーのシェアは回復し、現在は約8割近くまで戻しています。

この回復は、前述のSG認証商品の増加やブランド信頼性への回帰と連動していると考えられます。

一方で、TOP20メーカー全体の売上シェアは年々減少傾向にあり、新興メーカーの継続的な参入がうかがえます。同様の動きは子ども用ヘルメットでも確認でき、上位集中から分散へと構造が変化しています。TOP20シェアの低下は市場参入障壁の低さを示しており、新興ブランドにとっては依然として参入余地がある市場です。「安全認証」や「デザイン性」で差別化できるかが、今後の生き残りの鍵になるのではないでしょうか。

2026年春、ヘルメット市場に「第二波」は来るのか

結論:来る可能性は高いと考えています

その根拠は主に3つあります。

① 青切符導入による世論の変化

2026年4月の青切符制度において、ヘルメット未着用は反則金の対象外です。
しかし、事故の際に過失割合へ影響する可能性が指摘されており、メディアでの報道も増えています。
この報道と「世論」だけでも、「念のため」購入を喚起し、未購入層の購買を後押しする効果は十分にあるのではないでしょうか。

② 買い替え需要との重複

日本ヘルメット工業会(JHMA)が推奨するヘルメットの安全使用期間は3年です。
2023年の努力義務化で購入した層が、ちょうど2026年春に買い替え時期を迎えます。
青切符の「空気」と3年の買い替えサイクルが重なるタイミングです。
また、努力義務の段階でしっかりと購入するユーザーは一般的には「誠実で真面目な性格」と想定されます。
安全使用期間が3年と認識すれば「再購入」をする可能性は十分にあると考えます。

検索トレンドが示す「急上昇」の予兆が類似

Googleトレンドで「道路交通法改正」の検索関心を確認すると、今回は施行2ヶ月前の時点で前回の約2.4倍に達しています。
ところが「大人用ヘルメット」の検索は2026年2月現在で、まだほとんど動いていません。
この動き、実は前回もまったく同じでした。
道交法改正への関心だけが先行し、「大人用ヘルメット」は施行1ヶ月前までほぼ検索されず推移しています。それがメディア報道を機に、たった1ヶ月で検索関心が3.8倍に跳ね上がりました。
今回は「青切符」への世論の関心は前回の2倍以上。違反により罰則金ということなので関心はより強くなるのは納得です。着用は努力義務のまま変わりませんが、報道で「ヘルメット未着用も指導警告の対象になる」と伝え始めたらどうでしょうか?
その瞬間──前回と同じ、あるいはそれ以上の「よくわからないけど、とりあえず買っておこう」が再び動き出す可能性は十分にあると考えます。
購入のヤマは「来ない」のではなく「まだ来ていないだけ」と見るべきだと考えます。

参考)GoogleTrends相対指数(最大値=100)で「3つの関連キーワード」を検索

ただし、需要の「質」は変わります

一方で、購入する商品が低価格の商品かと言われると、答えはノーです。
2回目の購入は「とりあえず安いもの」ではなく、SG認証・帽子型など「選んで買う」需要が中心になると予想されます。現在のSG認証商品や帽子型ヘルメットの伸長トレンドを見る限り、市場側の準備はすでに整いつつあります。

なお、2025年後半は大人・子どもとも前年比50〜60%の売上減となっており、市場は一旦落ち着いた局面にあります。ここから再び動き出すのか、注目です。

参考文献

調査概要

  • 対象期間:2022年〜2025年
  • データソース:Nint ECommerce
  • 対象カテゴリ:大人用・子ども用ヘルメットジャンル

この記事を書いた人

山本 真大(やまもと まさひろ)
株式会社Nint マーケティングDiv ECアナリスト

note:https://note.com/nint_ecommerce

株式会社明治の菓子営業としてキャリアをスタートし、主に店頭での販促施策を担当。その後IT業界・流通業界・他業界のメーカー職を経験し、オフライン市場における、製造・流通に携わる。EC業界の今後に魅力を感じ株式会社Nintへ入社。営業・カスタマーサクセスを経て現在、ECデータアナリストとして、数々のブログや電子書籍の執筆、セミナー登壇に関わる。
セミナー登壇数は20を超え、オフラインの経験とオンラインのデータ分析をもとにした、セミナー内容は参加者からも好評をいただいている。

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