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ビール値上げでEC販売はどう変わる?影響と対策を解説

#市場規模 #法改正 #食品業界

※本記事は過去に公開した記事を加筆・修正のうえ再掲載しています。内容は執筆時点の情報に基づいています。

こんにちは、Nintデータアナリストの山本です。

2024年10月の酒税法改正が実施されましたが、2025年4月には原材料費や物流コストの上昇を背景とした、メーカー各社による自主的なビールの値上げが発表されました。

今回の値上げのポイントは以下の通りです:

  • 値上げ時期:2025年4月(メーカー各社の発表に基づく)
  • 対象商品:ビール、発泡酒、新ジャンル(第三のビール)
  • 主な値上げ要因:原材料費・物流コストの上昇

特にEC市場では、値上げ前の駆け込み需要販売価格の変動 が予想されます。
本記事では、2024年10月の酒税法改正時の市場動向を振り返りながら、2025年4月の値上げに向けた仕入れ・販売戦略のポイント を解説していきます。

ビール値上げの背景と影響

2025年4月のビール値上げは、原材料費や物流コストの上昇、そしてメーカーの価格改定が要因となっています。EC市場でも販売価格や消費者行動に大きな影響を及ぼすことが予想されます。本章では、値上げの背景と具体的な影響について解説します。

原材料費の高騰とその影響

ビールの値上げの背景には、原材料価格の上昇 が大きく関係しています。特に以下の要因が影響を与えています。

  • 麦芽・ホップの価格高騰:国際的な供給不足や気候変動の影響で、主要産地の収穫量が減少
  • アルミ缶・包装資材の価格上昇:エネルギーコストの増加により、缶やラベルの製造コストが上昇
  • 物流費の高騰:燃料費・人件費の上昇により、国内輸送コストが増加

大手ビールメーカー各社は、これらのコスト増加を受け、2025年4月に価格改定を実施すると発表しています。ビール市場全体での価格上昇は避けられず、EC販売にも直接的な影響が出ることが予想されます。

過去データから見るビール値上げの影響と予測

過去の主な値上げ情報と、これから予定されている情報を以下の表にまとめました。

図1:ビール・発泡酒・新ジャンルに関わる、法改正及び出来事のまとめ

今回、上記のNo.1~4の時期における、「平均単価」変化と販売動向の変化をご紹介いたします。

データからみるビール・発泡酒・新ジャンルの価格変化(2019年~現在)

さっそく3大ECモールにおけるビール・発泡酒・新ジャンルの平均単価の推移を確認していきましょう。

図2:3大ECモール ビール・発泡酒・新ジャンル市場平均単価推移

市場全体と、ビール・発泡酒・新ジャンルの平均単価推移を確認すると、平均単価は2019年10月の増税時(1の数字の箇所)より上昇していることが分かります。

また、2020年10月の酒税法改定時(2の数字の箇所)からはさらに上昇に加速がついていることが分かります。一方、2022年10月(3の数字の箇所)になると、上昇率は若干落ち着きがみられ、2023年10月(4の数字の箇所)になると、さらに発泡酒・新ジャンルに関しては緩やかに上昇と変化がみられます。

それぞれの「時期」と、「ジャンル」を確認すると、いくつか特徴が挙げられます。

  1. イベント時期「直前」には「値上げ」が起きている
  2. イベント時期「直後」には「値下げ」が起きている
  3. 酒税法改定で「生産価格」が低下したビールでも平均単価は一時的に低下するが再び「上昇」している

これらの要因には、「モールでのイベント」による特価の影響などの可能性もありますが、市場の傾向として、ビール・発泡酒・新ジャンルに関して以下のことが言えそうです。

◆ビール
酒税法改定の影響で価格は低下する可能性が想定されたが、物価高騰などの影響もあり、 大きな価格変化は見られず上昇している。

◆発泡酒・新ジャンル
酒税法改定の影響もあり、ビールに比べても価格上昇が加速している。

次は月別単位での売上推移と、平均単価推移を市場全体とビールで確認します。

データからみる市場・ビールの売上・価格変化(月次)

次は、1月~12月を横軸にし、各年の売上推移を確認します。

図3:3大ECモール ビール・発泡酒・新ジャンル市場売上推移  ※点線はその年に大きな法改正・値上げなどの出来事あり

市場全体の売上推移を確認すると、大きなイベントのある年のみ、「9月」に売上が上昇する傾向がみられます。これは、10月に控えるイベントに対しての駆け込み需要であると考えられます。一方で、2024年や2021年のように、10月に特段の価格改定や法改正がなかった年は、9月の売上の増加は見られませんでした。このことからも、9月の売上上昇は「値上げ直前の駆け込み需要」によるものと考えられます。

図4:3大ECモール ビール・発泡酒・新ジャンル市場平均単価推移 ※点線はその年に大きなイベントあり

次は、平均単価の推移です。特徴として、平均単価は、2024年が最も高い傾向が続いており、次いで2023年が高いという点が挙げられます。また、イベント前の平均単価を確認すると、「上昇」していることが分かります。 これは、駆け込み需要時に「平均単価」の上昇がみられると予想されます。今回調査しているビール・発泡酒・新ジャンルでは全体としてイベント後は「値上げ」が予想されるジャンルです。しかし、イベント「前」の9月から平均単価の上昇が起きる点は通常ではあまり起きない動きではないかと思われます。

図5:3大ECモール ビール・発泡酒・新ジャンル市場売上・平均単価推移

先ほど(図2)で発泡酒・新ジャンルの平均単価推移がが2023年・2024年にかけて緩やかに上昇した旨をお伝えしましたが、年間推移で確認するとその動向がよく分かります。

市場の2023年~2024年にかけての平均単価上昇率は、ほかの年に比べても緩やかに推移しています。これは、昨今の価格情勢に対して、値上げなど対応(消費者の認識・ショップの価格設定・メーカーと卸の出荷価格の設定)が一通り落ち着いてきた表れではないかと思われます。

図6:3大ECモール ビールジャンル市場売上推移 ※点線は「酒税法改定」の年 太い実線は「値上げ」された年

ビールジャンルに注目すると、酒税法改定による「値下げ」が予想された2020年・2023年の9月には売上に大きな変化は見られませんでした。
一方で、「値上げ」となった、2022年10月に関しては、「9月」に売上が上昇しました。これは、発泡酒・新ジャンル同様に「駆け込み需要」が起きたと想定されます。

図7:3大ECモール ビールジャンル市場平均単価推移 ※点線は「酒税法改定」の年 太い実線は「値上げ」された年

平均単価の特徴としては、「2023年」が最も高い点が挙げられます。また、酒税法改定後の平均単価は「低下」していることが分かります。
一方で、「値上げ」年の2022年でも値上げ後に平均単価が低下していることから、「酒税法改定」による影響だけでなく、モール内のセール施策や、消費者の買い控え傾向、需要の一時的な反動減といった複合的な要因が関係している可能性が高いと考えられます。

図8:3大ECモール ビールジャンル市場売上・平均単価

年度別でビールジャンルの売上・平均単価推移を確認すると、2024年の平均単価は「下がった」ことが分かります。これは、2023年の平均単価には、2022年10月の値上げの影響が、2024年の平均単価には、2023年10月の酒税法改定による影響が表れた結果ではないかと思われます。
最後に、駆け込み需要が予想された、2022年9月と、翌年の酒税法改定前の2023年9月のビールジャンルTOP300商品で使用されている商品ワードから、2025年4月の値上げ動向を予想します。

駆け込み需要時と平常時のTOP300商品からみる、2025年4月の動向

以下に2022年9月と2023年9月のビールジャンル売れ筋TOP300商品の頻出ワードをまとめました。

図9:2022年9月(値上げ直前) ビールジャンルTOP300商品のワードクラウド
図:10 2023年9月(平常月) ビールジャンルTOP300商品のワードクラウド

各年を比較すると、大きな違いはみられず、若干2022年では「送料無料」が多く使われていることが分かります。また、「500mlサイズ」のワードが2022年ではみられる一方で、2023年では350mのみとなっています。駆け込み時は、単価を重要視するため、量目の多いものを今のうちに購入しておこうという心理が働いた結果かもしれません。

まとめ

2025年4月の値上げに関してはいくつかの動きが予想されます。

  1. 消費者は「値上げ」により強く反応するため、「駆け込み需要」が発生する可能性
  2. 「平均単価」は今までの値上げ時の動きを確認すると、2025年4月の値上げ直後、「一時的に低下」する可能性
  3. (4月に向けて)容量の多いサイズ(500mlタイプ)の需要が増加する可能性

これらの可能性が考えられる一方で、値上げによる影響は短期的には「駆け込み需要」や「価格の一時的変動」として現れますが、中長期的には消費者の購買頻度や商品選択の変化に繋がる可能性。EC事業者にとっては、イベント前後の動向を注視し、価格設定や販促戦略の柔軟な対応が求められます。

2026年10月には酒税法改定の3段階目の内容が施行される予定です。施行により、ビール・発泡酒・新ジャンルにかかる酒税が一律となります。大きな変化は2026年10月の酒税法改定時に起きるのではないかと予想します。

この記事を書いた人

山本 真大(やまもと まさひろ)
株式会社Nint マーケティングDiv ECアナリスト

株式会社明治の菓子営業としてキャリアをスタートし、主に店頭での販促施策を担当。その後IT業界・流通業界・他業界のメーカー職を経験し、オフライン市場における、製造・流通に携わる。EC業界の今後に魅力を感じ株式会社Nintへ入社。営業・カスタマーサクセスを経て現在、ECデータアナリストとして、数々のブログや電子書籍の執筆、セミナー登壇に関わる。
セミナー登壇数は30を超え、オフラインの経験とオンラインのデータ分析をもとにした、セミナー内容は参加者からも好評をいただいている。

Nint ECommerceに関して

日本国内のEC市場の約7割を占める3大ECモール(楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピング)の売上・販売数量をモール別、ジャンル別、ショップ別、商品別に分析できる画期的なツールです。Nint ECommerceを活用いただくことで、以下のイベント対策を効率的にサポートしています。

活用例

商品在庫(SKU単位)の拡充
 競合価格を見ながら自社の販売価格を設定
 競合のポイント倍率を見ながら自社のポイント倍率を設定
 商品名(商品情報)での差別化
 検索露出(RPPなど)の強化

Nint ECommerceを活用することで、ECビジネスチャンス創出に役立ちます。ご興味のある方は、ぜひ下記リンクよりNint ECommerceの詳細をご確認ください。

備考

今回調査にあたり抽出したジャンルは以下の通りです。

  • Amazon :食品・飲料・お酒、お酒、ビール・発泡酒 ジャンル以下
  • 楽天 :ビール・洋酒、ビール・発泡酒 ジャンル以下
  • Yahoo!ショッピング:食品、ドリンク、水、お酒、ビール、発泡酒ジャンル以下

※詳細ジャンルに関しては株式会社Nintへお問い合わせください。
※当社サービスの売上・数量は推計データです。

参考URL

調査対象:Nint推計データ

Nint推計データは、AIやクローリングなどの技術により⽇本国内の3⼤ECモールで販売される商品の売上⾦額・販売数量を⾼精度に推計したデータに、サイト内でのプロモーションデータ等を加えた、EC市場の総合的な分析を可能にするビッグデータです。

データ抽出期間:2019年1⽉〜2024年12⽉(※本稿における Nint 推計データは 2025年3⽉時点のものを使⽤)

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【出典:Nint BLOG「ビール値上げでEC販売はどう変わる?影響と対策を解説」(2025年4月10日公開)】

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