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経済産業省の調査とNint分析で読み解く— 2024年日本EC市場規模とEC化率の最新動向

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はじめに

経済産業省が公表した「令和6年度電子商取引に関する市場調査報告書」によれば、2024年の日本の物販系BtoC-EC市場規模は15.2兆円(前年比3.7%増)となり、EC化率も9.78%に達しました。2025年には10%突破が期待されるなど、日本のEC市場は引き続き拡大基調にあります。

Nintでは、こうしたマクロデータに加え、楽天市場・Amazon・Yahoo!ショッピングという3大ECモールの詳細な取引データを独自に分析しました。
その結果、2024年の成長を支えた主因は「販売数量の増加」であることが判明しました。
さらに、ネット通販事業者の倒産件数が過去最多を記録したという公開データと照らし合わせることで、進行する「市場の二極化」の背景についても明らかにしています。

2024年日本EC市場のポイントまとめ

  1. 【Nint分析】市場の牽引役は3大ECモール:全体の3倍超の成長率
    2024年の物販系BtoC-EC市場全体が前年比3.7%増であるのに対し、Nint推計による3大ECモールの流通総額は前年比13.0%増と、市場全体の成長を大きく上回る結果となりました。市場シェアは7割を超え、日本のEC市場における存在感は増しています。
  1. 【Nint分析】成長の構造を解明:ドライバーは「平均単価」と、それ以上に「販売数量」
    3大ECモールの成長率13.0%を要因分解すると、「平均単価の上昇(+4.0%)」に加え、それを2倍以上上回る「販売数量の増加(+8.6%)」が力強い成長を支えていることが判明しました。
  1. 【考察】EC市場の二極化:なぜ事業者倒産は過去最多なのか
    市場が成長する一方、東京商工リサーチのデータによれば2024年のネット通販事業者の倒産は過去最多を記録しています。この背景には、Nintの分析が示すような市場の構造変化にうまく対応できた事業者と、それが困難だった事業者との間で「二極化」が進んでいる可能性が考えられます。

日本のEC市場規模(2024年):経済産業省調査が示す緩やかな成長

経済産業省の調査によると、2024年の日本における物販系BtoC-ECの市場規模は15.2兆円(前年比3.7%増)となり、堅調な成長が続いています。
また、商取引全体に占めるECの割合を示すEC化率も9.78%(前年比0.4ポイント増)と上昇しており、2025年には10%の大台を超えることが期待されます。

表1: 物販系分野の BtoC-EC 市場規模(▲は減)

出典:経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」より弊社にて表加工

このマクロな成長トレンドの中で、消費者の購買行動の主戦場はどこになっているのでしょうか。
次に、市場の大部分を占める3大ECモールの動向を詳しく見ていきます。

Nint独自分析①:3大ECモールが牽引する日本のEC市場

市場シェアは7割超、前年比13.0%の成長

Nintの推計データによれば、2024年における楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピングの3大ECモールの流通総額は約11.2兆円に達し、前年比13.0%増という高い成長率を記録しました。
これは、物販系EC市場全体の成長率(3.7%増)の3倍を超える数値です。

この結果、物販系EC市場全体(15.2兆円)に占める3大ECモールのシェアは73.7%に達し、日本のEC市場の成長において、大手プラットフォームの存在感がより一層強まってきています。

成長のドライバーは「販売数量」と「平均単価」

では、この力強い成長は何によってもたらされたのでしょうか。
Nintは今回、この成長を「販売数量」と「平均単価」の2つの要素に分解し、その構造を分析しました。

分析の結果、成長率13.0%のうち、販売数量の増加による寄与が+8.6ポイント、平均単価の上昇による寄与が+4.0ポイントであることがわかりました。
これは、昨今の物価上昇や高単価商品への需要増加による単価増が成長の一因であることは事実であるものの、それ以上に「ECでモノを買う」という消費行動が量的に拡大していることを示す、極めて重要なデータです。

図1: 3大ECモール市場成長の要因分解(2024年 前年比)単位(%)

図1: 3大ECモール市場成長の要因分解(2024年 前年比)単位(%)

Nint独自分析②:ジャンル別に見るEC市場成長ドライバー

3大ECモール全体の力強い成長は、すべてのジャンルで一様に起きているわけではありません。ジャンルごとに見ると、その成長ドライバーは多様な姿を見せます。

  • 「食品、飲料、酒類」:数量が増加
    市場規模の大きいこのジャンルでは、ECでの購入が日常化したことによる「販売数量の増加」が大きく貢献しています。メーカーによる値上げはあったものの、比較的低単価の購入が進んでいると考えられます。
  • 「生活家電、AV機器、PC・周辺機器等」:高価格帯商品の需要増と数量が両輪。
    このジャンルでは、より高機能・高性能な製品への需要が活発化し、「平均単価の上昇」をもたらしつつ、消耗品の購入も進んでいます。
  • 「化粧品、医薬品」:「販売数量」の増加が著しい成長ジャンル
    専門ショップの拡大など裾野が広がり「販売数量」が大きく増加しました。高い成長率を記録しました。

このように、ジャンルごとに成長のメカニズムは異なります。
自社が属するジャンルの特性をデータで正しく把握することが、戦略を立てる上で不可欠です。
以降、ジャンルごとに述べます。

表2: 3大ECモール 主要ジャンル別 成長ドライバー分析(2024年)

生活家電、AV機器、PC・周辺機器等:高価格帯商品の需要増

経済産業省の調査によると、このジャンルの2024年におけるBtoC-EC市場規模は約2兆7,443億円で、前年比2.26%の増加を示しました。
EC化率は43.03%と高く、物販系の中でも特にEC化が進んでいるカテゴリーの一つです。
Nintの推計データでは、3大ECモールの流通金額の増加(前年比112.0%)は、平均単価の上昇(前年比106.4%)と数量の増加(前年比105.2%) の両輪で成長しています。

個別のカテゴリに目を向けると、消費者の新たなニーズを捉えた製品群が市場の成長を力強く牽引していることが分かります。
特に以下の分野で顕著な動きが見られました。

• ポータブル発電機:防災意識の高まりやアウトドア需要の拡大を背景に、屋外発電機・充電器カテゴリの市場規模は2024年に約513億円に達し、前年比で約93.9%増加という成長を記録しました。特にソーラーパネルとセットになった高機能・大容量モデルが人気を集めています。

• エアコン:2024年の記録的な猛暑を受け、EC市場規模は約590億円へと前年比1.26倍に拡大しました。特に、工事不要ですぐに利用できるスポットエアコンが新たな市場を形成し、急成長しています。

• ドライヤー・ヘアアイロン:在宅美容への関心の高まりから、市場規模は約528億円に拡大しました。消費者は価格よりも品質や性能を重視する傾向が強く、ダイソンといった高価格帯のプレミアム製品が市場を牽引しています。

このように市場全体が成熟期に入る中でも、防災、節電、巣ごもり需要の進化といった社会情勢やライフスタイルの変化に対応した高付加価値商品が消費者の支持を集め、個別の市場で力強い成長を見せているのがこのジャンルの特徴です。

衣類・服装雑貨等:スニーカー市場が活発化

経済産業省の調査によると、「衣類、服装雑貨」分野のBtoC-EC市場規模は約2兆7,980億円で、前年比4.74%の増加を示しました。
EC化率は23.38%で、物販系の中でも高い水準を維持しています。
Nintの推計データでは、3大ECモールの流通金額の増加(前年比100.1%)は、平均単価の上昇(前年比106.0%) によるもので、前年と同水準を維持しています。

このジャンルの中でも特にスニーカーのEC市場は著しい成長を見せています。
2024年の市場規模は約1,449億円に達し、前年の約1,030億円から大幅に増加しました。
この成長は、メンズスニーカー市場が牽引しており、市場全体の約7割を占めています。

消費者のニーズを見ると、ニューバランスのような特定の人気ブランドに需要が集中する一方で、「軽量」「通気性」といった快適性や、「ランニング」「ウォーキング」などの機能性を重視する傾向が強いことがわかります。
また、スニーカーはファッションアイテムとしての役割も担っており、デザイン性や「Amazon限定カラー」といったECサイト独自の展開も購買意欲を高める要因となっています。

このように市場全体としては横ばいに見えますが、スニーカーのように消費者のライフスタイルやファッションへの関心の高まりを捉えたカテゴリでは、活発な動きが見られます。

食品、飲料、酒類:日常購買の拡大で数量が増加

経済産業省の調査によると、このジャンルのBtoC-EC市場規模は約3兆1,163億円で、前年比6.36%の増加を示しました。
EC化率は4.52%と他のジャンルに比べて低いものの、ネットスーパーや食品デリバリーサービスの普及により市場は拡大傾向にあります。
Nintの推計データでは、3大ECモールの流通金額の増加(前年比112.8%)は、数量の増加(前年比115.3%)によるもので、平均単価の減少を補っています。

市場全体が拡大する一方で、個別のカテゴリでは社会情勢や消費者の嗜好の変化を反映した動きが見られます。

• コメ類市場の変化:2024年は「令和の米騒動」と呼ばれる供給不足と価格高騰の影響で、EC市場規模は約289億円から約266億円へと縮小しました。特に白米やレトルトご飯の売上が減少する中、健康志向の高まりを背景に玄米の市場シェアが20.0%から24.7%へと拡大し、売上も増加しました。

• コーヒー市場の変化:コーヒー豆の価格改定などの影響で、EC市場規模は約397億円から約322億円へと縮小しました。しかし、その内訳を見ると、価格に敏感な層が離脱する一方で、「香りや味わいを重視する」コーヒー豆やドリップバッグカテゴリの市場シェアは拡大しており、消費者の本格志向へのシフトがうかがえます。売上ランキングでも、専門店の福袋や大容量セットが上位を占めています。

このように、食品・飲料ジャンルでは、価格や供給といった外部要因に市場が左右される一方で、消費者の健康志向や本格志向といった付加価値を求めるトレンドが明確になってきています。

化粧品、医薬品:美容意識の高まりで数量が急増

経済産業省の調査によると、「化粧品、医薬品」分野のBtoC-EC市場規模は約1兆150億円で、前年比4.54%の増加を示しました。EC化率は8.82%です。
Nintの推計データでは、3大ECモールの流通金額の増加(前年比121.6%)は、数量の増加(前年比129.3%)によるもので、平均単価の減少を補っています。

このジャンルの中でも、特に美容液のEC市場は著しい成長を遂げています。
2024年の市場規模は約414億円に達し、前年の約358億円から15.6%増と大幅に拡大しました。

この成長の背景には、消費者の高い美容意識があります。
特に「レチノール」「ビタミンC」「ナイアシンアミド」といった高機能成分への関心が非常に高く、具体的な効果を期待して製品を選ぶ傾向が強まっています。
また、「毛穴」「ハリ」「乾燥」といった個々の肌悩みに直接アプローチできる製品や、「まつ毛美容液」のカテゴリも市場を力強く牽引しています。

ECでの購入においては、偽造品を避けるため「公式」「正規」といったキーワードで検索する消費者が多く、信頼できる販売チャネルから購入したいというニーズが明確になっています。
このように、消費者の専門的で高度なニーズを捉えた高付加価値商品が、市場全体の成長を後押ししています。
一方で、比較的低単価な消耗品の品揃え増加と販売数量の構成比の増加が単価を押し下げており、平均単価前年割れの要因となっています。

生活雑貨、家具、インテリア:防災・快眠ニーズで市場拡大

経済産業省の調査によると、このジャンルのBtoC-EC市場規模は約2兆5,616億円で、前年比3.62%の増加となりました。EC化率は32.58%で、高い水準を維持しています。
Nintの推計データでは、3大ECモールの流通金額の増加(前年比116.6%)は、数量の増加(前年比115.8%) によるもので、平均単価は横這い (前年比100.7%)となっています。

この成長の背景には、消費者のニーズの変化があります。
たとえば、防災意識の高まりを受けて、防災専門メーカーの売上が前年比で約6.4倍と急増しました。
また、質の高い睡眠への関心から、高機能寝具が人気を集め、同メーカーの売上は約6.0倍に拡大するケースがあります。

さらに、家具においては、単に機能性だけでなく、デザイン性を重視したブランドも売上を伸ばしています。
たとえば、収納アイテムを中心に売上を伸ばしたメーカーは、デザイン性の高い照明器具が売上を伸ばしています。

このように「生活雑貨、家具、インテリア」ジャンルでは、防災や快眠といった具体的なニーズに応える高付加価値商品や、デザイン性に優れた商品が市場全体の成長を力強く牽引しています。

日本EC市場の二極化:成長と倒産増加が同時進行

ネット通販事業者の倒産は過去最多

Nintのデータは3大ECモールが力強く市場を牽引している「光」の側面を明らかにしました。
しかしその一方で、市場全体には厳しい「影」の側面も存在します。

東京商工リサーチの調査によると、2024年のネット通販事業者の倒産は261件(前年比21.3%増)に達し、過去最多を記録しました。休廃業・解散も増加しています。
特筆すべきは、倒産した企業の多くが負債額5千万円未満・従業員数5人未満の小規模事業者である点です。

「数量×単価」に対応できた企業と淘汰される企業

この「全体の成長」と「小規模事業者の苦境」という一見矛盾した事象は、EC市場の「二極化」が深刻化していることを示唆しているのかもしれません。
参入障壁の低下による過当競争やコスト増といった環境下で、画一的な価格競争や広告施策に陥ってしまった事業者が採算悪化から淘汰されやすい状況がうかがえます。

Nintの分析が示すような「数量×単価」といった複雑な市場構造の変化に柔軟に対応できたかどうかが、明暗を分ける一つの要因となっている可能性も考えられます。

加えて、Nintのデータでは大手メーカーと大手店舗の組み合わせや、メーカー直販の公式ショップが売上を増加させているデータを確認しており、流通構造が変わりつつあります。
特に”型番”でのビジネスは難易度を高めているという声をNint顧客からもいただいております。

図2: ネット通販事業者の倒産・休廃業・解散件数の推移

(注)出典:株式会社東京商工リサーチの調査より弊社にてグラフ化

これからの提言:データドリブンな戦略でEC市場を勝ち抜く

本レポートで見てきたように、EC市場は3大ECモールをエンジンに成長を続けています。
しかし、その内実では「数量×単価」を軸とした複雑な成長構造の中で最終消費者と向き合わなくてはならず、裏側では過当競争などを背景に、厳しい状況に置かれる事業者も少なくないという二極化の側面が見られます。

このような状況下で、EC事業者が感覚や経験則だけに頼って事業を継続するのは極めて困難です。
体力のある大手と価格だけで勝負するのではなく、データに基づいて自社の勝ち筋を発見し、戦略的な意思決定を行うことが、これからの市場で生き残るための重要な鍵であるとNintは考えます。

市場や競合の動向をデータで正確に把握し、消費者のニーズの変化を捉え、自社の強みを活かせる領域を見極める。こうしたデータドリブンなアプローチこそが、激しい競争環境を勝ち抜くための羅針盤となります。

Nintは、EC市場の透明性を高めるデータを提供することで、すべてのEC事業者がデータに基づいた最適な意思決定を行えるよう、これからも支援を続けてまいります。

▶︎2023年の調査レポートはこちら

この記事を書いた人

今田雅也
株式会社Nint 取締役 兼 執行役員 兼 日本事業部門長

2001年にシスコシステムズ合同会社に入社しエンジニアとしてキャリアをスタート。通信キャリア、アプリ開発会社、楽天のプロデューサー職を経て、2011年よりアマゾンにてビッグデータを活用したバイヤー業務、事業運営、ファイナンス業務を行う。デジタルコンテンツと物販系のEC事業経験で10年以上。2021年5月に約10年在籍したアマゾンジャパン合同会社を退職。2021年6月に株式会社Nintに入社し、取締役 兼 執行役員 兼 日本事業部門長に就任。

Nint ECommerceに関して

日本国内のEC市場の約7割を占める3大ECモール(楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピング)の売上・販売数量をモール別、ジャンル別、ショップ別、商品別に分析できる画期的なツールです。Nint ECommerceを活用いただくことで、以下のイベント対策を効率的にサポートしています。

活用例

商品在庫(SKU単位)の拡充
 競合価格を見ながら自社の販売価格を設定
 競合のポイント倍率を見ながら自社のポイント倍率を設定
 商品名(商品情報)での差別化
 検索露出(RPPなど)の強化

Nint ECommerceを活用することで、ECビジネスチャンス創出に役立ちます。ご興味のある方は、ぜひ下記リンクよりNint ECommerceの詳細をご確認ください。

出典元

調査概要・免責事項

  • 調査機関: 株式会社Nint
  • 調査対象: Nint推計データ (楽天市場、Amazon、Yahoo!ショッピング)
  • 転載・引用について: 転載・引用の際は出典を明記してください。【出典:「経済産業省の調査とNint分析で読み解く— 2024年日本EC市場規模とEC化率の最新動向」 (2025年9月30日公開)】

適応したNint推計ロジック:楽天市場:version2024(β版)、Amazon:version2025(β版)、Yahoo!ショッピング:version2024(β版)

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